鈴が鳴る。響き渡る
人の笑い声が歓声が反響して、それすらも音楽の一部となる

「頼まれていた物です」
「ありがとうございます」
「あの…実はお伝えしたいことが」

耳元でひそひそと告げられる
その内容に驚きはしたものの、どこかで納得もした
僕は微笑み礼を述べる

「これが終われば皆でシンドリアに帰国しましょう」
「はい!」

最後の宴に相応しいモノを魅せましょう
着ていた衣装全てを脱ぎ、新たなものに身を包んだ



「さあ次はシンドリア王国よりお越しいただきました、セレーナ・アイオス様です!」

司会の呼ぶ声がする
必死に僕を引き止める侍女達を無視して舞台へ踏み出していく

与えられた衣装ではなく、真っ白なシンドリアの衣装で

王がくれた僕のためだけに作られたもの
それに大量の貴金属を身に付けた
1つ1つは黄色や茶色といった、地味な色のそれも多量にあれば華やかになる

すべてあの日マスルールさんがくれたもの
僕のために、選んでくれた大切なもの

「セレーナ…!?」

ざわめく観衆の中聞き覚えのある澄んだ声がした
水色の髪が目に入って僕は笑う
武官の方が言ってくれた通り、ヤムライハさんが居た

『約束の期限は7日。最終日の宴にはシンドリアから数名参加致します』

きっと過保護な王がこぎつけた約束だろう
そんな約束があると知ったら、彼女が来ることはすぐ分かった
八人将が簡単に外に出て良いのかなと思いつつ視線を会場全体に向ける

国王の不思議そうな顔
アディンの眉根を寄せた苦々しい表情
お姫様を見た時、一瞬だけ僕の世界から音が消えた

その傍らにはマスルールさんが居る

勝ち誇ったような笑みでお姫様が此方を見る
僕は、それに笑って返した
なんて嬉しいことをしてくれるんだろう。居ないと思っていた人を連れて来てくれるなんて

飛び跳ねたい衝動を押さえ込んで口を開く



「わたしの手綱とる君の 命にかけて誓います、
 恋の庭にて恐ろしい 敵にあうとも、いとわずと。
 ののしる者はこらしめて、わたしは君に従いましょう
 たとえ眠りと分かれても また、喜びを捨てるとも。
 君恋しくてこがれれば、墓も作ろう、この胸に、
 わが胸さえも墓(おくつき)の そこにあるとは知らさずに!」



マスルールさんと目が合う
泣きたいほどに嬉しくて、顔が綻んでいく
彼が驚いた表情を見せた気がした

突如、バァン!!と何かが壊れる音が響いた

音楽隊も僕自身も動きを止めて音の出所を見る
アディンが左拳から血を流していた
隣にあった豪華な台座が真っ二つになっている

「…もういいだろ、茶番は」

生気の籠らない蔑んだ瞳
僕はアレを知っている

憎しみと怒りだけが燃える
怨み、呪い、狂う
攫われた時の僕のような

「――っうるさ…!」

ビイイイイイイイイイ!!!と耳を劈く悲鳴がした
白いルフがどんどん黒く、大きくなっていく

「アディンお主一体何を…」
「いいよお前も要らない。消えろ」

口を開いた国王の首が飛んだ
弧を描いてゆっくりと落ちていく
嫌な音と共に、それは下にいた客達の元へ転がった

「きゃああああああああ!!お父様ぁ!!」

お姫様の叫び声が引き金となり皆がパニックを起こす
剣を抜いたままのアディンが、振り返りざまにお姫様すらをも殺そうとしたのが目に入った

「マスルール止めて!」
「…っ」

咄嗟にマスルールさんの名前を呼ぶ
僕の声が届いたのかは定かではないけれど、お姫様に向けられた剣は寸での所で止まった
アディンの右腕をマスルールさんが折ろうとするほどに強く掴んでいる

「気に入らないファナリスだな。鼻につくんだよ…力も場所も地位もあの子も何もかも手に入れて、そのくせ何にも執着を持ってなさそうな顔しやがって」
「………」

2人が顔をつきあわせて何か話している
此処からじゃ遠くて小声は聞こえない

舞台上から飛び降り、ヤムライハさんのもとへ駆け寄る
彼女は僕を見るなり傍に居た武官に指示を出した

「あなたは今すぐ此処を出なさい」
「いいえ、僕も「駄目!これは八人将からの命令よ!」

数人の武官が謝ってから僕の身体を拘束する
その隙にヤムライハさんは走って行ってしまった

「離してください!」
「危険ですからどうか避難してください!!」
「でも、」

目の前を黒いルフが通り過ぎる
全身が震えた次の瞬間、アディンの高らかな声が部屋全体に響き渡る







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