海を越えた先にある国
バルバッド同様貿易が盛んなこの国は、そこかしこに異国の文化を取り入れ発展させている
招かれた宮殿も大きく華やかだった

慎ましやかに国王に挨拶をする
和やかな談笑の後に通されたのは王宮内にあるハレム
…ちょっと待て、僕此処で生活するのか?

「わたくし貴女様担当の天人花、マートルでございます。どうぞ何なりと申し付け下さい」

部屋は豪華絢爛、客室ではないにしろ充分すぎるほどのもの
でもどんな高待遇だろうと此処がハレムっていうのが引っ掛かる
僕に宛がわれた天人花という侍女らしき美少女も、シンドリアの子達以上に甲斐甲斐しい

浴室に連れて行ってもらうと、即座に彼女は僕の服を脱がせにかかる
慌てて拒むとしばらくぽかんとされて、見る見るうちに泣きそうになる

「いやあの、僕には普通に接して下さい。それにハレムでなくとも構わないのです、他の方々と同じよう客室で…」
「貴女様にそんな場所はお似合いではありません!さあ、お身体を洗いますからどうぞ衣服を」

どうして僕の衣服を頑なに脱がしたがるんだよ!
小競り合っていると浴室に人が入ってきた
次から次へと、眼福にも程があるぐらいの美人達

ハレムは国王の妾場だ
シンドバッド王はそういうの作ってないから何も思わなかったけど
実際に目の当たりにすると美女の集団は圧巻だなぁ

「新しいお方?」
「綺麗な顔してるのね。此方にいらっしゃいよ」

王が心底喜びそうな状態だ
綺麗だったり可愛かったりする女性が、これまた花のような美少女を携えてきゃっきゃっうふふしてる
男が居ないんだから当然女に走るか…うん

「やっぱり部屋の備え付け風呂に入らせてもらいますね」

下半身のこともあるし、何処に目をやったらいいか分からなくなってきたし
天人花の彼女も何とか部屋から追い出し1人で湯浴みをした

ぱしゃん、と湯を張った浴槽に浸かる

乳白色に濁っている水中から足を出す
細くて折れそうな足は、僕の目にはあまり魅力的に映らない
顔を半分ほど湯船に沈めて泡を作る

向こうの宮殿では付き添ってくれた武官達が休んでいるんだろうな
同室、とまではいかなくとも、本当に向こうでよかったのに

髪を洗い梳かして、身体を清めさっと服に袖を通す
水を吸った布地の色が変わる
浸透していくのを感じながら窓辺に座って夜風に当たる

「手紙、したためとくべきかな…」

着いてまだ数刻だっていうのに
心配そうな泣きそうなヤムライハさんの顔が思い浮かぶ
彼女は僕に対して少しばかり過保護な面があるけれど、だからといって僕の行動を異常に制限することはなかた

だけど今回ばかりは王にすら詰め寄ってまでこの国に行くことを回避しようとしていた
同じナーキスがいるから?単にこの国が嫌いだから?
イマイチ理由が思いつかない

「あれ…?」

ぐらり、と視界が揺れる
月が2つに割れたように見えた
一瞬の眩暈の後はいつも通りに戻る

「ちょっと今日は気を張りすぎたな…寝よ」

上質なベッドに横たわる
シーツの滑らかな肌触りにつられて瞳を閉じた
深海に沈むように眠りに落ちていく





ピイイィィィ、とルフが鳴く
その声に目を開けると、見慣れない顔が物凄く近くにあった
僕が声をあげるより早く向こうが声をあげて退いた

なんだ、よく見たら天人花の子じゃないか
床に降りて必死に土下座してる

「あの…「申し訳ございません!どうか、どうかお暇だけは…!」

見たところ武器を所持してるわけじゃない
顔をあげるよう頼んで、何をしてたか問えば頬を染められた

しまった質問ミスした
此処って同性愛の温床って言われるぐらいだし、それの付き人してたら…僕自身人の事言えやしないんだけどさ

キスとかぐらいなら可愛いモノだから別にいいが
身体触られたらやばいよな
バレないよう小さく溜息を吐いて、用意された衣服に着替える

模様の入ったターバンに赤い額飾り
真珠の連なった首飾りと白いさらさらした布地で作られた、胸元の開いたシャツ
紺色に金で縁取られた半袖の上着を着て、腰元を宝石のついた銀のベルトで止める

上着と同じ素材の長いズボンを履く
その上からベールみたいに透けている、小さい花を散らしたふくはぎほどのスカートを重ねた
足首には銀色の輪を付けて、二の腕と手首にも同様に

コール粉に紅に竜涎香に
装い凝らして鏡を見る

きっと誰もが綺麗と言ってくれるこの姿すら、あの人には綺麗に見えないのだろうか

「王がお待ちかねです。どうぞ」

荘厳な大広間に通されシンドリアの礼をとる
そんな僕を彼が、アディンがお姫様の隣で見下ろしている
どうして君がシンドリアの形式に則るんだと言いたげな瞳で

向こうの王様に促されて踊りを魅せる
音楽も流れる歌声も綺麗なもののはずなのに、皆息を飲んで僕を見てくれているというのに、この心の隙間は何だろう






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