桃 花 歴 乱 李 花 香




こんにちは。私、煌帝国の下女をしております、鬼灯と申します
実はこの度昇進しまして、皆様のお世話からお1人の方のお世話に切り替わりました

と、言いますのも私、恐れ多くも紅玉姫に懇意にしていただいておりまして
どうも姫様が口添えして下さったようです

ですので今日から職場が変わりまして、ご挨拶に向かったわけではありますが

「西南区の戸籍一覧ありましたー!」
「すみません、租税の前年比は…」

一体どういうことでしょうか?
私、姫様の世話人では無いのですか?
此処は何度見ても文官様しかいらっしゃいません

「えっと………きゃっ」
「悪いな、ごめんよ」

ぼーっと突っ立ているとぶつかりました
これではご迷惑なので、隅に寄って…とにかく偉い方にお話を伺います

辺りを見渡せば一際目立つ方が
姫様のお傍で仕えていらっしゃる夏黄文様だ
見知った顔に少し安心して、話し掛けに行きます

「おはようございます夏黄文様。あの、本日より、」
「?紅玉姫ならばあちらに…」
「いえ、姫様より此方で働くよう仰せつかりまして」

夏黄文様に首を傾げられました
困りました。どうやら夏黄文様も知らないようです
姫様が此方にいらっしゃるご予定も無いとか

一度戻ろうと思いましたが、お仕事をいただきました
いくらなんでも文官様の仕事ではありません
お茶をご用意したり、墨の替えを持ってきたりという、今までと変わりないことです

「すまないが人手が足りないので…姫には私から伝えておきますから、今日は此処で」
「はい。お役に立てるのでしたら、どうぞお使いください」

大したことは出来ませんが、皆さん御礼を言って下さるので嬉しい
自分が嬉しいともっと他人に何かをしたくなります
頼まれました物を上機嫌で運んでいると、ぬっと人影が現れました

「きゃ…っ!」
「お?ババアのとこの、えーっと…まあいいや、食うモン持ってねえ?」

神官様です。また紅玉姫のことをバ…私は姫様より年上ですし、何よりお優しい姫様のことをそう言う方はあまり好ましくありません
しかしとても偉い方なので、無碍にするわけにもいきません
常備している駄菓子を差し上げるとすぐに平らげられました

「もっとくれ」
「このぐらいしか持ち合わせておりません…」
「じゃ、それ全部」

カツアゲされている気分です
全ての駄菓子を食べられました
空腹からは脱却されたのか、神官様は機嫌が良くなりました

「つかなんでお前ココに居るんだよ」
「本日より此方での勤務になっております」
「ふーん…じゃあメガネの部下か」

言われてみれば確かに
文官、ではありませんが夏黄文様に命を頂くのですから
そう考えると少し嬉しいです
私と違ってとても聡明な方ですから、ちょっと、ほんのちょっとですよ。憧れているんです

「…なんかスゲー嬉しそうだなぁ」
「えっ、そうでしょうか?」
「……!菓子の礼に良い物やるよ。ついて来い」

ついて来い、と言いつつも神官様は無理矢理私を引っ張り歩き出しました
持っていた物を落としても、仕事場に戻りたいと申しても全く聞く耳を持ちません

連れて行かれた先は豪勢な衣服が並ぶ部屋
どこかで見た覚えのある物が…

「これなんてどうよ。あと頭にはコレでー靴はこいつで」
「神官様、此方は確か紅玉姫の、」
「なんだよ気にいらねーの?じゃあこっちな」

傍若無人です。好き勝手にも程があります
受け取るものの着替えない私に、神官様は無理矢理剥ごうとされるので、泣く泣く自分で着替えました
バレたら私クビに…いえ本当に首が飛ぶかもしれません

「ジュダルちゃん何してるの?」
「きゃあ!こ、紅玉姫!」
「…私の…よく似合うじゃない鬼灯!でも簪はこっちのがいいわぁ」

怒られるかと思いきや姫様は嬉しそうに私を着せ替え始めました
喜ぶ姫様とは逆に、神官様は飽きたのか欠伸をします
見立てられて豪華になった私は私ではないみたいで

「さっ、職場に戻ってちょうだい」
「この格好でですか?」
「大丈夫よぉ。ほら早く早く」

姫様に背を押されて追い出されましたので、道中落とした物を拾いつつ戻ります
遅くなった謝罪をしにそっと部屋に入れば休憩時間のため、夏黄文様しかいらっしゃいません
慌てて近寄り手を組んで頭を下げました

「その格好は…」

怪訝そうな表情をされじろじろ見られました
私が説明しようとすると、いそいそといらした姫様が笑顔で私の隣に立たれます

「可愛いでしょう?私とジュダルちゃんが見立てたのぉ」「はあ…姫、お戯れも程々に…」
「素直に可愛いって褒めなさい」

ちらりと私を見て、夏黄文様は眉を顰めます

「私達は勤務中でありますから、着飾るよりは質素に動きやすい物の方が好ましいのです」

溜息を吐いて視線がそらされました
遠回しに、似合ってないと言われた気がします
ふと近くにあった姿見が、私と紅玉姫を映していました

確かに髪と首から下だけがとても豪華で
顔はあまりに不釣合いでみすぼらしいです

「ともかく貴女も昼食を…っ!?」
「鬼灯っ、ああもう夏黄文が褒めないから…!」
「いや、私は、その、」

気付けば涙が頬を流れ落ちていました
衣服は紅玉姫の物ですから、拭うこともできません
勤務中にどこかへ行ったのは自分で、似合っていないのも自分の所為なのに、気を遣わせてしまって本当に申し訳ないのですが止める

ことはとても難しいです

「私…着替え、てっきますから…」
「〜〜〜っ、着替え…いや、今は確かに着替えてほしいのですが、…また姫が貸してくださると言うならば、見せてほしいのだが」

夏黄文様がしどろもどろになりながら私を慰めてくださった
それが少し面白くて、小さく笑って頷きました
言われた通りに今は着替えに戻って、居なかった分のお仕事を頑張りたいと思います

次お見せする時までに、女磨きというものも一緒に頑張ります



「…折角夏黄文の傍に就かせたのに」
「姫様、…それは感謝しますが、衣服は休暇におやりください」
「! あら、そう。それもそうね!他人に見られて惚れられたら困るものね!」





      
(とうかれきらんとして、りかかんばし)




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