柳 緑 更 帯 春 煙




まだ日も昇りきらない時間帯に私は起きる
そろそろ薄着に切り替えるぐらいの気温になってきた
隣に居る夏黄文を起こさないよう、そっと抜ける

結い紐で髪を縛る
衣服も仕事用に着替える
桶に張った水で顔を洗い、整える

ベッドに置き忘れた巻物を取ろうと腕を伸ばす
その腕を、別の腕が掴んで引き戻される
折角整えた髪が乱れた気がした

「私、仕事なの」
「ん…そうでございますな…」
「こら、寝惚けない。口調おかしくなってるから」

低血圧なのか単純に弱いのか
ともかく姫様方に使う言葉で私に擦り寄る彼の頬を摘まむ
弛めに摘まんだ所為か、はたまたより深い眠りに落ちている所為か
意識が完全に覚醒する気配は無い

窓の外に目をやり、腹の空き具合などから時刻を考える
今朝はわりと早めに起きたから、まだ大丈夫か

「このお寝坊官吏さんが」

頬の代わりに鼻を摘まめば苦しそうな表情
くすくす笑って手を離した
いい大人が健やかな寝息を立てている

顔にある模様を見つめる
指の腹でそれをなぞり、最後に軽く口付ける

暖かな日差しが差し込み始めてきた
さあ、そろそろ本当に起きて行かないと

「よいっせ、っと」

重たい腕を身体から退ける
彼を跨ぐようにしてベッドから降りた

案の定崩れた髪を結い直す
ああ、巻物も忘れずに持つ
行ってきます、と小声で呟けば身じろいだ

それでもやっぱり起き上がることのない彼を確認してから部屋を出る
足取りも軽やかに、職場まで鼻歌を歌いながら行く

さあさあおはようございます
貴方達の上司であります夏黄文殿は、本日お寝坊につき暫く現れません
麗らかな春の日差しにやられて夢の世界で遊んでいます

「アラ…鬼灯、夏黄文を知らないかしら?」
「いいえ姫様。どうかされましたか?」
「んもう、今日は朝稽古をする約束だったのに!夏黄文!」

可愛らしい貴女様より、とてもとても可愛らしい彼のこと
誰かに教えるにはまだまだ勿体無いんです





     
(やなぎはみどりにして さらにしゅんえんをおぶ)




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テーマ「人外ファンタジー」
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