雲 想 衣 裳 花 想 容




私が私でなければ、貴方とは出逢えず
しかし私が私であるが故に、貴方に恋焦がれるだけ
知ってか知らずか分を弁える愛しき忠臣

「姫様、此方が今日のお召し物で御座います」
「ええ…置いておいて」

官女の柔らかな笑顔にも、今日は応える気が起きない
窓辺にある椅子に腰掛けたまま動かない
目覚めてから今まで、ずっとそう

困り果てた官女が部屋を出て行くのを横目で見る
すぐに視線を戻して空を見た

鳥はあんなに高く飛びまわれる
自由と対価に不安や絶望もあるでしょう
でも、自由すらなく絶望に苛まれるよりきっと、マシ

「失礼します」

凛とした声に反応する
名に恥じず、よく似合う黄が映った

「まだその様な格好で?」
「着替えたくないの」
「もうそろそろ私の手では負えなくなります」

呆れた表情の中に疲れが見えた
そういえば今日は紅玉とお出掛けするって約束してたんだった
約束の時刻はとっくに過ぎている

「でも、嫌」

紅玉と出掛けることが嫌なんじゃない
ましてや紅玉自身が嫌いとか、そんなはずもない

ただ私はこの城から出たくないだけ
出来得るならば部屋からも、一歩たりとも

「私が出れば私は此処から去らなきゃいけない」

夏黄文の瞳が一瞬揺れた
政略結婚の道具として使われたくない
ほいほいと差し出されるような、そんな女で生涯を終えるのは御免だわ

だから私は自分を磨いた
誰にも触れられないよう、でも誰からも欲されるよう

「窓辺に佇み微笑んでいれば民衆は私を一目見ようとやってくる」

煌帝国に訪れる他国の者ですらも
どうにかして手に入れようと躍起になる

「では何故紅玉姫と約束なさったのですか…」

断っていれば良かったのに
そう言いたそうな声音で夏黄文が私を諌める
出来ない約束をするのは、王族として如何なものかと思ってるんでしょうね

「それを貴方が聞く?」

ひょいっと手の甲を上に向け差し出した
彼はそれを取り傅いて、甲に緩く口付ける

「ねえ、夏黄文」
「何ですか鬼灯姫」
「…貴方のそういうところ、嫌いすぎておかしくなりそう」

身分に囚われ動けないなら
囚われ続けて死んでも動いてやらない

「ごめんねと告げてきて。話し相手ならいつでもなるから」
「ええ、それなら姫も喜びますよ」

互いに尽き果てるまで、滑稽な主従を続けましょう





      
(くもにはいしょうをおもい、はなにはすがたをおもう)




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