草 色 青 青 柳 色 黄




「私アレがとても欲しいのよぉ…」
「…しかし私が話しかけにいくよりは姫直々の方が…」
「だってまた避けられたら嫌じゃない!いいから早く連れてきてちょうだい!」

短い嘆息を1つ吐いて私は中庭へ向かった
我が主である紅玉姫は友達が少ない、いや、いないという方が正しい
立場を考えれば無理もないことではあるが、当人は酷くそれを気にしていらっしゃる

しかし王族ともあろう方がおいそれと官女や街娘と言った下々と触れ合うのは好ましくない
そう忠告した私に、姫は一時は大人しくなったものの、アレを見つけて以来また言い出すようになった

「鬼灯殿」

武官を倒し槍を収める彼女を呼ぶ
振り返ったその顔は少しばかり驚いていた

「これはこれは夏黄文様。貴方が私に話しかけるなんて珍しい」

礼をした彼女は軽く皮肉を口にした
私はあまりこの人を好いていない

どこからともなくやって来て、知らぬうちに国に紛れ込み
皇帝の信も得たと思えばあっという間に重鎮になった

確かに武に秀でて且つ器量よし、弁舌もたおやかではあるが
出世を狙う私にすれば至極邪魔だ

「で、如何様なご用件で?」
「…紅玉姫が貴女と話したいと申しております」
「ああ…では半刻お待ち下さい。必ず向かいますから」

そう伝えればよいのか
と、私が頷き踵を返そうとすればぐっと後ろから衣服が掴まれた
驚き立ち止まって見ると、女らしからぬ力で私を引き止めた彼女が口角を上げていた

「半刻以内で構いませんから、私とひとつ手合わせ願えませんか?」
「生憎私は勤務中なのだが、」
「承知の上で。私も紅玉姫から交えろと仰せつかってるものでして」

にっこり笑う彼女の奥に、嬉しそうな姫の表情を見た気がした
御自身の事を蔑ろにしてまで此方側に策を張り巡らされるとは…姫はよっぽど話し相手がいないと見える

僅かな時間で2回も吐くことになった溜息を、今度は大きく出し剣を構えた
軽装になり金属音を中庭に響かせる
元来武官ではない私が、どうしてこうも面倒事に巻き込まれているのか


何故彼女はそこまで嬉しそうに笑えるのか


見れば見るほどに忌々しくなるその笑みを、彼女が一瞬消した
剣がぶつかり合う音が失われたような感覚
確かに重なり、彼女の顔がこんなにも近くにあるというのに、地上の音全てが聞こえない

いや、再度描かれた弧から生み出される声だけが聞こえる

「姫からは剣を交えろ、神官殿からは単純に交えろと言われたのですが、さてどちらの意味で取りますか?夏黄文様」

目を見開いた刹那、大きく弾き飛ばされた
尻餅をつく私を太陽を背にして彼女が見ている
光が邪魔をして細かい表情までは見て取れない

「さあ、半刻経ちそうですし参りましょうか!結果も報告せねばなりませんしね」

差し伸べられた手を取らずに私は立ち上がる
衣服を翻し歩み出す彼女を、今度は此方が掴み引き止めた
あの時の私よりもっと驚いた顔が広がる

「姫には私が負けたと、神官殿にはまた後日」

きっと今の私は彼女より、数段意地悪く笑えているだろう





      
(そうしょくせいせいとして、りゅうしょくきなり)




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