その後僕は改めて王とそれに仕える八人将の方々に説明をした
左目下の宝石に宿る、ジンを手に入れた経緯を

「迷宮内でジンに育てられた、か…」
「俄かには信じ難い話ですが…実物を見たとなると」
「…私見てない」

簡単には信じてもらえそうにない雰囲気の中、水色髪の彼女がわなわなと震えだした
小声で何かを呟いたと思うと、僕の両肩を勢い良く掴む

「どうして私は寝ていたの!?そんな不思議なことを目の前にして、何故!何故!?」
「あっあの、それは僕のですね、」
「悔しいいいいいいいい!!!アイツは見たのに私は見れてないなんて!」

がくがくと前後に揺さぶられる
駄目だ。聞いてもらえそうにない
朦朧とし始めた意識の中そう思うと、制止の声が入ってようやく納まった

「もう少し詳しく聞きたいが、俺に用があってな…また聞かせてくれ」
「はい、シンドバッド王」

礼をして退室しようとすると身体が傾いた
後ろに倒れこみかけた僕を、赤髪の男が支える

「すみません…」

詫びの言葉には答えず抱き上げられそのまま歩かされる
狼狽する僕を余所に、彼は部屋まで運んでくれた
知らない間に水色髪の彼女も着いてきていた

「話、ちょっとだけ聞かせてもらって良いかしら?」
「ええ」

彼女には迷惑をかけてしまった
そのお詫び、というのもなんだが中へと通す
何故か彼も交えて話をすることになった

「私がヤムライハ…というのは紹介させていただきましたね。此方がマスルールです」
「どうも…」
「僕はアイオスです。…いえ、セレーナ・アイオスです」

僕が名前を告げると彼女、ヤムライハさんは歓喜の声をあげた
何がそんなに嬉しいのか分からず首を傾げると、そわそわとした様子で語りだす

「貴方様の薄緑色の髪や顔立ち、目下の宝石でまさかとは思ってたのだけど…」
「何かの民族なんスか」
「間違いでなければ、ナーキスだと私は思うわ」

博識。と心中で彼女を褒め称える
宝石はなるべく隠していたのによく見ているな
一方の彼、マスルールさんは疑問符を浮かべた

「不完全な一族――それがナーキスです」

どう説明するか悩むヤムライハさんに僕が断言した
立ち上がって、窓を閉め、衣服に手をかけ全て脱いだ
驚いた表情を見せるマスルールさんと、対照的にまじまじと眺めるヤムライハさん

「男性器も女性器も持たずに生まれる無性人間。それが名の由縁の1つです」
「本当にどちらも無いの…?」
「見ますか?股開けばすぐ分かりますが」
「えええっ、い、今は結構です!」

今はってことは後でなら見たいんだな
小さく突っ込みをいれながら服を着る
ベッドに腰掛けなおして話を進めた

「由縁の1つってことは他にも?」
「ええ。それが貴女の倒れた原因です。僕達ナーキスは体内で魔力を作り出すことが出来ません。常に他者から補充しなければ死んでしまいます」

取り込み方法は基本的に踊りと歌
人々を楽しませ、喜ばせ、ある時には趣深く悲しませ、綺麗な白い鳥達を身に纏う
稀に見る黒い鳥は駄目だと幼き頃教わった

あれを多く取り込めば死んでしまうと

「はあ…民族にも色々あるんスね」
「そりゃ全員貴方みたいに強ければ世の中凄いことになってるわ」
「…そちらの方は何か…?」

口ぶりが気になり尋ねると、彼女は笑顔でとんでもない発言をした

「ファナリスよ。最強民族と謳われる、ね」

サアッと血の気が引いた
動揺したのが向こうにも伝わったらしく、心配の声が聞こえる
必死に頭を振ってからベッドに乗り上がり距離を取った

「どうしたのですか…?」
「お、恐れ多いことです。僕には貴方様に近寄る権利を持ちません」
「?」

今度は2人して首を傾げた
説明を求められ、僕は目線を落としたまま答える

「ナーキスは…身体の外部内部共に不完全なことから、最弱民族と言われております。他者の援助を受けねば1週間で死ぬ身ですから…」

平均寿命は凡そ30歳
早い者は5歳を待たずして息絶える
強靭な腕力も脚力も持たない、ただただ不完全で脆弱な一族

「待って!私が読んだ文献では、ナーキスは伝説の民族とあったわ」
「それは遠い昔の話です。祖先は大黄牙帝国などの時の王たる者に仕えていましたから…ただ一番安全に魔力を得れる場所にいただけが、いつしかナーキスを手に入れし者が国を統べるという噂になって」

自分自身の言葉にふと昔を思い出す
迷宮に匿われる前、僕達は小さな村に住んでいた

両親や沢山の兄弟がいたその村に、奴隷狩りの魔の手が伸びたのは、僕が5歳ぐらいの時
少し前まで笑っていた人達の泣き叫ぶ声
一番上の兄に手を引かれて僕は逃げまわった

深い森を、寒い山を
何日も何日も、ずっと

『…いいかセレーナ。俺が囮になるからその隙に逃げろ』
『おにいちゃ…やだ、やだよぉ』
『泣くな。見つかりそうになったら木の幹に隠れろ。お前1人なら小さいからどうにかなる。いいな、ちゃんと逃げて生き延びるんだぞ。それが俺達の願いなんだから』

おいていかないで
何度だって叫んだけど兄は行ってしまった
悲鳴が聞こえて、怖くて、泣きながら走った

どんどん声が近付いてきた時あの場所を見つけたんだ
アスモデウスの眠る、迷宮を

「所詮単体では弱き民族です。他者を喰らい生き永らえる、滑稽な…本当に申し訳御座いません」

深々と頭を下げた
見目だけ取り繕った穢い一族

でも、それでも

「生きたかったんだろう」

その声にはっと頭を上げる
彼は僕を見詰めて強い口調で言い放った
心の底を読まれたかのような発言に、心臓の音が五月蝿くなる

「そうね、私が貴方なら同じように過ごしているはずだわ。此処に望む限り居てちょうだい?私達は誰一人として貴方を拒むことはないから」
「ヤムライハさん敬語」
「あ!ご、ごめんなさい!ってマスルール貴方もでしょう!」

突っ込まれて慌てふためく彼女に思わず笑みが零れた
構わないと首を振って前に進み出、2人の手を片方ずつ取った

「宜しくお願いします、ヤムライハさん、マスルールさん」
「…歓迎するわ。セレーナ」
「ああ…」

ふわりと微笑む2人の周囲が煌いて
少しその輝きに泣きそうになったけど
僕はこの日、ようやく1歩踏み出せたんだ







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