どれくらい寝ただろう
まだ日も高い時間帯からほぼ一周していた
気だるい体を起こして、衣服を着替えていると扉が叩かれる

「はい…」

ゆっくり扉を開けば水色髪の女性が立っていた
胸、大きいなとぼんやり思う

「初めまして、ヤムライハと申します。今お時間宜しいでしょうか?」
「ああ…どうぞ」

手頃な椅子を用意して促し、僕自身はベッドに腰掛ける
彼女は微笑を携えて僕を見た

「アイオス様、貴方様は王に何か隠し事をされていらっしゃいませんか?」


何を突然


驚く素振りは見せずに平然とした態度で彼女を見据える
瞳には確信の色が宿っていたけれど、此処で負けたら終わりだ

「――確かに僕は身分を偽り滞在しております。しかし、あの時はそうする他無かったのです」

やや低めに情緒をつけて喋る
僕が隠していることのうちの1つ
バレても全く支障のない、可愛らしい嘘

「ええ。貴方様が奴隷であることは王は重々承知です。それ以外のものに疑問を感じていらっしゃるのです」

そう言うと彼女は立ち上がり僕の前へと歩み寄る
逃げようにもベッドが邪魔をし、行動が出遅れた
僅かな隙をつき、彼女が左目下にある宝石に触れた

「駄目だ触るな!!」
「えっ―――」

彼女の驚いた顔
それが僕が最後に見た景色
触れた途端に白いそれが全てを覆いつくしていく

「きゃあああああっっっ!!」

遠くで彼女の悲鳴が聞こえた
白いそれが遮って見えやしない

どくん、どくんと心臓が脈を打つ

早く止めなくては。どうやって?
どうでもいい
何でもいいから止めないと、彼女が死んでしまう―――


「助けてお兄ちゃん!!」


無意識に叫んだ言葉に返事が降り注ぐ
何度も聞いた優しい声が、耳元で囁くように聞こえる
収束していく白い鳥達に視界が開けた

ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間
ベッドで座ったままの僕と、床にぐったりと倒れている彼女
慌てて抱き上げると顔色が酷く悪い

「アイオス様今悲鳴が…!」
「おいどうした!!」

侍女と、見知らぬ褐色肌の男が部屋に飛び込んできた
事情を説明する間もなく、男の方がその光景を見て僕に掴みかかる

「テメェ何しやがった!」
「っ!…、あとでっ、あとで話しますから早く彼女を…!」
「シャルルカン様!ヤムライハ様がっ」
「くそっ」

乱暴に払われベッドに投げ出される
男が彼女を抱き上げて、どこかへ連れ行こうとする
その腕を必死に掴んで立ち上がった

「この国に彼女以上の魔術の使い手はいませんか!?」
「はぁっ!?」
「いらっしゃるのならば、その人の下へ連れて行ってください!」

何が何だか分からない
男はそんな顔をしたけれど、彼女の息遣いに急いで部屋を飛び出て行く
後を追っていくと謁見した大広間へと辿り着いた

「王サマ!」

半ばパニックを起こしながら入ってきた男を、他の人が諌める
謁見の最中のようだったが、腕にいる彼女を見て周りもざわめきだした
隣の小部屋に通され彼女がベッドに降ろされる

「どうしたんだ…ヤムライハがこんなに魔力を消費しているなんて…」

王が彼女の容態を見事言い当てる
彼は、これが見え、これを理解している人なんだ
僕は少し躊躇った後、前に進み出た

そして王のもとに傅き頭を下げる

「シンドバッド国王陛下並びに此処に居られる官位持ちの方々。どうかお力添えください」
「貴方が何かされたのですか?」
「詳しくは終わり次第お話いたします。今は…何も聞かず、お願いします」

緑のクーフィーヤを被った男性が怪訝そうな顔をした
無理もない。何も聞かずにだなんて
褐色肌の男も、傍らに居る金髪の少女も、険しい表情でいる

「…何をすればいいんスか」

言葉を発したのはあの赤髪の彼だった
発言を諌める声を聞いても、彼は顔色ひとつ変えない

「ヤムライハさんがヤバイんですから…ごちゃごちゃ言っても仕方ないかと」
「ですがマスルール…!」
「そうだな。よし手伝おう」
「シン!貴方まで!」

彼に続いて王も頷いた
僕は心からの感謝を述べて、改めて周囲の人々を見る
そして褐色肌の男を指差した

「貴方は少し離れていてください。それ以外にご協力いただける方は彼女を中心に手を繋いで円を作ってください」
「おいっ俺だってな」
「彼らが駄目と言うんです。だから駄目です。…お気持ちは察しますが、貴方まで危険な目には遭わせられません」

強く出れば相手は言葉を詰まらせた
…彼は、彼の中にある鳥達が少なすぎる

彼女をベッドから床に敷いた布に動かし、皆が手を繋ぐ
僕はその中心で彼女の傍らに座った

「辛くとも声はあまり出さないでください」

そう言って僕は彼女の手を取る
ごめんなさい。僕の所為で酷く辛い思いをして
息を吸い込み声色を鈴が転がるようなものへと変えた







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