僕はとても卑怯で最低
何故なら僕はとても弱く脆いから

「どうぞ宜しくお願いします」

にこっと微笑めば困惑した表情が人々に宿った
数多居る奴隷の中から選んだ、僕の糧
頼んだのはただ1つ。これから先いかなる状況に陥ろうとも諦めないこと

「此処に来る前と同じ生活をしてもらえたら良いんです。そのために僕は貴方達を選び、家族毎引き受けたんですから」

戦争に不況、飢饉
不幸ばかりのこの世界で更なる不幸、奴隷へと貶められても尚、その瞳に希望を持った人々
この人達が尽きた時僕の命も尽きてしまう

「あの…私達はそれ以外何をすれば…」
「手持ち無沙汰というのなら僕の買い物や、話し相手になってください」
「それだけなのか?」
「それがとても大切な素敵なことだと、今なら身に沁みて分かりますでしょう?」

下唇を噛み締める人達
当たり前が出来なくなることが、有り得る世界
…いつから世界はこうなったんだろう
僕が生まれるよりずっと前の世界は、こうじゃなかったはずなのに



ねえ、君が見ておいでと言った世界はあまりに酷すぎるよ
僕はどうして外に出されたの?
教えてよ…お兄ちゃん





「アイオス様は本当に歌がお上手ですね」
「…そうかな」

窓辺で小声で歌っていると、傍らの女性が笑った
その身体からは白いそれが舞い、僕は心中でごめんねと謝る

「父や母の方が上手だったよ」
「あ…」
「――と言っても僕は殆ど覚えていないんだけどね」

家族の話はするべきじゃなかったな
反省しつつ、ベッドに脚を伸ばした
足枷はもう付いていない。僕を売るための用意が整いだしたから

「私達どうなるんでしょうか…」

女性が節目がちに呟く
僕が売られれば、その下に就いていた彼らの今後は真っ暗だ
ピィィィ、とそれが鳴いた。ううん、泣いた

「心配ないですよ。僕の引き取り先に掛け合ってみますから」
「まあ…!」

それがせめてもの償いだと思うから
微笑みの裏に本音を隠して僕は笑う

綺麗な寝床もそれなりの食事も楽しい談話も
全ては僕が醜く生き長らえるための、糧にしかすぎない
他人の命を喰らい生きる僕らなんて





「お前を売る場所だがな」

奴はある日尋ねてきた
開口一番僕の売り場所を語りだす
広げられた地図には2箇所印が付いていた

「煌帝国かシンドリア王国か…どちらも強大だが奴隷に金を出すかどうか」

正確にはどちらがより多く金を出すかどうか
地図をじっと見つめる
僕が生まれ育った場所は、どの辺だっただろうか

「頭の良いお前なら分かるだろう。どちらが良い」

その瞳には見事なまでに金のことしか無かった
決して嫌いではないよ、とフォローしておく

「僕が決めて宜しいのであれば――シンドリア王国を薦めます」
「理由は」
「確かに近年煌帝国は力を付けており、あと2,3年で強大な国となりましょう。しかし…」

そんな国に僕を売り付けて、仮に5日で死んでしまったら?
買い手は激怒して奴らを探し出し根絶やしにするだろう
多額であればあるほど、そのリスクは高まっていく

「だがシンドリアは」
「奴隷制度がお嫌いとは伺っています。ですから僕を踊り子として売ってみては如何ですか?」

提案はすぐに決定された
彼の国へ入国と謁見の手続きをし、僕自身そう見えるよう着飾る
極力身体の線は出ない緩やかで煌びやか衣に身を纏い、頭上にはベールが飾られた

「本当に俺達もシンドリアへ…?」
「ええ。彼の有名なシンドバッド王であれば、貴方達もと請えば受け入れてくださりますよ」

部屋中に喜びが湧いた
彼らもそれらしく見えるよう着替える
海を渡った向こう側、南海の島国シンドリア王国

「君との約束、ちゃんと守るね」

僕の呼びかけに応じる声は無かった








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