群集を掻き分けるように走り出す
あんなこと言うつもりじゃなかったのに
涙で視界がぼやけるも足は止まらない

心と身体がぐっちゃぐちゃで追いつかない
こんなにも、こんなにも好きなのに身体は逆になっていく

愛されたいのに愛されない身体
今まで出会った人達の殆どは、僕を綺麗だと愛してくれた
だけど本当にそう想って欲しい人には駄目だなんて

好きです。好きです、好きです、好きです
ただただ単純な答えがどうしてこんなに辛いんだ



路地に逃げ込み暗い場所へ辿り着く
ぜえぜえと息を荒げる
走りすぎた所為か、魔力が尽き始めている所為か

光が差し込まないから暗いのか
瞳を閉じているから暗いのかも分からない

背後から足音がした
振り向かなくても、判別できる

考えてみたら彼はとても足が速くて
僕がどれだけ逃げようとも、すぐに追いつけるに決まってる

「……」

狭い場所に2人して何をしているんだか
背中を向ける僕の後ろで、屈んだ音がしたと思うと軽々と持ち上げられて膝に乗せられた
状況が一瞬掴めなくて固まった隙に、逃げられないようがっしり抱き締められる

「ま、すっ」

びくっと身体が跳ねる
また、前みたいに掌が肌を滑っていく

他意はない。魔力の回復、善意
必死に脳味噌を働かしてそう思い、上半身を少し捻って、手を彼の鎧の縁にかけた

「気持ち、悪くないです、か」

途切れ途切れにでもはっきりと言い放った
滑る手が止まって、彼は押し黙る

「…もし貴方様が彼の、ジンであるアスモデウスの言葉を気にしているのなら、それはもう忘れてください」
「お前は俺に触られるのが嫌か?」

思わず首を横に振る
すぐ後悔したけど、事実であることは確か
もう何の熱か考えたくも無い熱さに顔を火照らせる

「マスルール様こそ嫌ではないですか。僕の…男の身体なんか触って」
「特に気にしたことが無い」

それはそれで問題発言です
実は同性愛者だったら喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない
僕の微妙な表情を汲み取ったのか、彼は向かい合わせに僕を座り直させてまた背中を撫で始める

「放っておけない」

何気ない一言だった
多分、彼にとっては僕があまりに弱いからとか、そういう意味合いで口にしたんだろう
それでも嬉しくて嬉しくて涙が出そうなのを堪える

今日は憂鬱になったり絶望したり喜んだり
なんて忙しくて幸せな日だ

「もし、もし許されるなら、貴方のことをずっと好きでいてもいいですか…?」

愛して欲しいとか我侭は言わない
問いかけに返事は無かったけど、背中を撫でる手が優しくて温かい
ほっと安心して微笑んだ時だった

「んっ、あ!」

油断していたから大きな声が出た
羞恥に駆られて塞ごうとする手を掴まれる
尻を触られ、鎖骨部分を舐められる

「ゃもう、ま、まって…!」
「魔力が危ないんだろう?大人しくしろ」
「んん…っ」

そうだけど。そうだけども
喉奥から出る声はまるで少女のようで
普段とは違う自分の甘い声にくらくらする
どこか遠くにふわふわ漂っているような気分にもなる

「っ、はぁ…」

ぼんやりしていた意識がはっきりした
だって、今の声は僕じゃなくてマスルールさんから出た物

男に欲情してる?単なる息継ぎ?
自分の嬌声よりも色っぽくて、どきどきする
場所が場所なだけに凄い背徳感だ

少し歩けば人通りの多い道があって
彼のことを知っている人が沢山いて
憧れとか、僕みたいに恋慕の情を抱いてる人もいるだろうに

背筋を這う快感にぞくぞくする
同時にこのままじゃ駄目だと警鐘も鳴り響く
ぐっと肩を押し返した

「本当に大丈夫ですから…!」
「…ああ」

着崩れた衣服を直して表へ出る
一緒に出て行くと怪しいから、マスルールさんには先に行ってもらった

「…よっしゃ」

ぐっと握り拳を作って小さくガッツポーズをした
好きでいて良いってことだよね
例え魔力のためであっても、ちょっとやらしいこと出来るとか
顔が緩みそうなのを必死に耐えながら遅れて向かう

市場はいつの間にか撤収していた
これ以上いても仕方ないからと、王宮に帰る







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