翌日朝陽が差し込むと僕は眉を顰めた
起きたくないと、身体も心も叫んでいる
だがそうも言ってられない

いつも通りの服に着替えて朝食をとって
さあ、王宮内をふらつこうかと微笑む僕に、現実は容赦なく襲い掛かる

「おはようございます…」
「ああ」

ふぁ、とマスルールさんが欠伸をした
丁度休日だから何となく参加したと言っていた
と、シャルルカンさんは暢気に答えていたけれど

僕はバレないように小さく息を吐いた
諦めろ。諦めろ。諦めろ
何度も脳内で復唱する

「街に行くか」

先を歩く彼を追いかける
だけど近寄り過ぎないように、適切な距離を保つ

気にされても困るが気にされなさ過ぎも困る
まるで全部無かったかのようだ

もやもやした気持ちのまま門を潜り街に出た
途端、僕の思考は全てそちらへ向けられる

「わあ…!」

一本道に連なる露店の多さや品物に目を奪われる
思えば昼間に王宮外に出たのは初めてだ
魚、果物、野菜、衣服、装飾品、剣、布、絵、楽器
どれもこれも見たくて忙しなく頭を動かす

「凄い。凄いです」

興奮のあまりマスルールさんに普通に話しかけた
しまった、と思ったけど彼も普通に返してくれる
気にするのは止めようか考えていた時、周囲のざわめきに気付いた

行き交う人々の視線の先はマスルールさん
どよめきがあるってことは珍しいのかな、街に出ることが
八人将は皆素敵だし有名なんだな

「貴方はマスルール様の恋人で?」
「へっ!?」

美味しそうな焼き魚があったから2つ買っただけなのに
店の主人に言われて串を落としかけた
幸いにも彼は少し離れた位置にいる

「違います、もうそれは全然違います」

言葉おかしくなってるのぐらい分かってる
高速で頭を横に振って、お釣りも受け取らずにその場を離れた
無言で串をマスルールさんに差し出して貪り食う

「…どうした」
「ひゃにも」

口いっぱいに魚を頬張る
もっと男らしい服を着てくれば良かったかな
だけど、それで万が一ホモだなんだの言われたら、彼の名誉に傷がつく

ごくん、と飲み込む
この気持ちも食物みたいに綺麗に消化できればいいのに

俯く僕の目の前に果物が差し出される
隣ではマスルールさんが同じ物を食べている
それを受け取れば、今度はお菓子、次は飲み物、そして服に靴に帽子に首飾りに

すっかり僕の格好は王宮を出た時とは変わってしまった
その1つ1つは男女どちらとも分からない、曖昧な物ばかりで

「――支払いは、」
「別に」
「いけません。こんな沢山」

最後に花束が眼前に広がる
南国に咲く、薄緑と白と赤の綺麗な花

「デートは誘った方が払うと聞いた」
「で…っ、その発言を此処でされるのは如何なものかと」

人通りはどんどん増えていて
マスルールさんの言葉に観衆が湧いた
おいどうしてくれんだよ。と彼を見ると、暢気に何かを食べている

「誤解を解きましょうマスルール様!」
「?何が」
「〜っ、僕は確かに貴方が好きですが、別に貴方は…っ!」

ハッと口許を押さえた
花束がばさりと地面に落ちる
こんな時だけ周囲も静まり返った







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