それから数日間マスルールさんを避けまわっているとジャーファルさんに呼ばれた
不審な行動に対する尋問と思いきや、彼は僕に衣装を手渡し着替えるよう告げる

「ジャーファル様」
「はい、なんでしょうかアイオス」
「なんでしょうか、これは」

しゃらん、と手首にある飾りが鳴る
踊り子衣装であることは重々承知だ
僕が突っ込みたいのは、いつもとは違って雄々しい飾り方だということ

「仕事着です」
「承知してます。ただ」

そこで僕は口を噤んだ
今までは女性らしいものが多かったのに突然何故男物を
などと言うのはおかしいからだ

僕の身体は今紛れも無く男のもので
別に何もおかしくなんかない
なのに酷く心が虚しいのはどうしてだろう

「…王はいらっしゃらないのに、何故かと」

質問を摩り替えるとジャーファルさんは笑った
以前、ヤムライハが貴方の踊りを見せるべきだと言っていたでしょう
とすっかり忘れていた約束を口にする

「その前段階みたいなものです」

僕の手を引いてジャーファルさんが歩き出す
連れて行かれた先は、布で仕切られた部屋だった
向こう側には十数人ばかり人がいる

「確かめたいことがあるので彼らに歌い踊ってくれませんか?」

有無を言わさない強い声に驚く
この人、こういう声も出せるんだ
耳に残る音に深い何かを感じた気がした

小さく頷いて布の近くに傅く
彼ら、とジャーファルさんは言ったけど、女性も居る気がする

「貴方様がお救いくださるのですか…!」

一体何のことだ
目を見開く僕に、ジャーファルさんが片目を瞑った
分からなくてもいいから話を合わせろって感じかな

「僕に何を求めますか」
「お許しください。私達は奴隷を繋げる鎖を生み出しました」
「お救いください。私達の手足は痣となり、満足に動けません」

前者は男性の声。後者は女性の声
鍛冶屋と奴隷の組み合わせ

奴隷という単語にマスルールさんを思い出した
両手足にある金細工のアレは、それを隠すための物だったのだろうか
今も消えない痣が彼にも存在するのか

「私達は彼らが憎くて仕方ありません」
「後悔ばかりが重く圧し掛かり、辛く苦しいのです」

嘆きの声に頭が痛む
僕は立ち上がって距離をとった
そしてすっと息を吸い込む

「許しも救いもしませんが、お見せしましょう。憂う未来への想いを―――ほんの、一時だけ」

僕は隔てる布を勢い良く取り払った
やつれた男性達と、俯く女性達
その様子に心がずきずきと痛んだ



「いやさ、鍛冶屋よ、なんとした。
 かのま乙女の手や足に 手枷足枷はめさせて!
 世にも稀代の器量よし 眉目よべっぴん傷付けて。
 お主がまともな男なら、踝飾りは鉄じゃなく
 純粋無垢の黄金で 巧みに細工しようもの。
 世の大法官が一目でも あだな姿を見たならば
 高い五座にすえるだろう!」



ピイピイとルフが耳元で鳴く
責め立てているわけじゃない
ただ嘆くくらいなら、もっと前を向いて足掻けばいい

僕がこんなことを思い伝えるなんて滑稽だろうけれど

泣き出す彼らの身体から白いルフが出る
それに紛れて黒いものも見えた
僕目掛けて飛んでくるそれらに、咄嗟に胸元に忍ばせた香り袋を掴んでぎゅっと瞳を瞑った

恐る恐る瞳を開けた時には黒いルフは消えていた
白いものも此方に近寄ろうとせず、静かに元の身体へ降りていく

はらはらと泣く人にルフが舞い降りて
まるで地上のものとは思えないほど輝いていた







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -