心臓が口から出そうなほど煩い
目を逸らしたら、きっと、何かが
その何かが脳裏に過ぎって顔に熱が集まる

静かな部屋の中にマスルールさんの息遣いが聞こえた
謝肉宴の時のように、耳元に顔が寄せられている

「前に、魔力を集める方法があると言ったが…」
「は、はいっ」

思わず声が裏返ってしまう
低く安心する声が、耳元で囁かれるだけでこんなに扇情的になるなんて
好きな人という効果も相乗している

「さっき黒秤塔の図書室で見ました。ただ、最後の方法が塗り潰されていて、」

肩を押していた手がいつの間にか腰に来ていた
それに気付いて僕は言葉を止める
まるでそれが合図のように、手がゆっくりと身体を撫で始めた

「っ、マス…っ」

ただ身体を撫でるだけなら僕だって別段文句は言わない
けれどそれは、男が女にするそれのようで、背筋にぞわぞわと得体の知れない感覚が走る

腰にある手が少しずつまた上にくる
抗議の声を上げようにも、口から出るのは吐息か嬌声ばかり
時折出る女々しい声に唇を結んで耐えれば、掌が服の上から胸を弄っていた

「ぁっ…」

全身から力が抜けていく
魔力を吸い取られてるんじゃないかってぐらいに
でも、それは疲れからではないのが分かる

止めて理由を聞かなきゃいけない
分かってる。だけど喜んでいる自分が居る
身体が反応しているのもそうだけど、心の奥でもっとってねだる自分が確かにいるんだ

「はぁっ、…え」

ぐったりベッドに沈む僕の両足を彼が掴んだ
待って、と叫ぶより早く大きく左右に開かれる
1枚布で出来た服は、その中全てを曝け出している

「あああああっ!やめてっ!!」

僅かに驚いたような顔の彼が目に見えた時、これ以上ないってぐらいの勢いで起き上がって服を押さえ隠した
羞恥に悶え苦しみながら蹲っていると、いつもの声が聞こえた

「もう大丈夫か」
「…え?」

一体何が。と尋ねる声はヤムライハさんが扉の向こうから呼ぶ声によって止められる
慌てふためく僕を余所に、マスルールさんはわざわざ扉を開きに行った

「マスルール…なら大丈夫ね。セレーナ他に人はいれてない?平気?」

何一つとして平気な要素がありませんでした
そう言おうと思ったら、ヤムライハさんの後ろでマスルールさんが口許に人差し指を当てていた
…ちょっときゅんときたとか認めない

「さっきのことで少し話をしたくて…」

ヤムライハさんが言葉を濁すとマスルールさんは席を外した
2人きりになって向かい合う

「塗り潰されてた部分気になる?」
「ええ、まあ」
「実は…性別関係なく性的接触による快楽で作れるらしいの」

頭上に陶器でも落とされたような感覚に陥る
性的接触って、ぶっちゃけちゃうならセックスだよな
もうちょっと軽めのでも範囲内なんだろうか

「あなた達は生まれた時は無性でしょう?だから、男女どちらかに寄った時できるみたいなの。…セレーナがこれを知ったら嫌がるかと思って」

だから詳細が載っている文献を読ませたくなかったらしい
でも塗り潰されているのを見て、他の誰かが知ったと思い、僕を一時的に隔離したんだとか
早めに対応できて良かったと喜ぶ彼女に、僕は乾いた笑いしか出来なかった

ごめんなさいヤムライハさん
多分それ塗り潰した人物を僕は知っています
そして貴女の気遣いは、全て水泡に帰しています…

「そういえば体調は大丈夫かしら?さっきも顔色が少し悪かったけど」
「…大丈夫です。はい」
「顔に赤味が帯びているから本当に大丈夫そうね」

微笑む彼女に涙が出そうだ
ヤムライハさんが部屋を出て行ってすぐ、マスルールさんを呼び戻した

「まさかとは思いますが。いえ、絶対にそうですよね」
「何が」
「あの文献読まれましたか」

視線が逸らされた
目の前が真っ白になりそう
この人も本とか読むんだな、なんて感心して現実逃避すら図ってる

「たまたま落ちていたから見た」
「そんな上手いことナーキスの部分が開いてることなんて」
「ヤムライハさんがしょっちゅう広げたままいる」

…そういえば僕の時も落ちていたな
彼女には物を片付けろということを忠告すべきか

「――何故それを実行しようと思われたのですか」

うっかり。本当にうっかり
本音が口から洩れ出た
慌てて押さえても後の祭

やっぱりいいですと言いたかったけど
真剣に考え込む彼に動きが止まる
悩むの、か。淡い期待は無かったことにして瞳を伏せた

「俺は、」
「ごめんなさい」

胸元の服を押さえながら謝った
邪な考えを抱いて申し訳なくて、彼が善意でしてくれたことに勝手な妄想を付け加えてしまって
そして何よりもあんな身体を見せてしまったことが、とても嫌だった

「いくら見目がアレでも同性同士は嫌でしたよね。助かりました、ありがとうございます。そして本当に申し訳御座いません」

僕はちゃんと笑えていただろうか
背を向けて部屋を出て行く途中、雨が頬を伝った気がするけれど、空は憎いほどに澄み切っていた







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