『お前は僕が認めた者だから、その全てを見ておいで』

それはとても優しいモノだったけど瞳からは涙が零れた
泣きじゃくる姿を見て、彼は困ったように笑った
左目の下をそっと大きな手が撫でる

『なら僕も一緒について行ってやる。だから約束は守るんだ』

大きな大きな姿は、いつの間にか同じくらいの背丈と年齢に変わる
額同士を合わせて2人揃って瞼を閉じた





phallic girl





がらがらがら。荷馬車が揺れる
時折大きく跳ねて身体をぶつける
沢山の人を乗せたそれは町へと着いた

「ほら並べ!」

次々と降りてくる人間が一列に並ぶ
皆一様にして暗く、澱んだ顔をしていた
1人1人順に小屋の中へと通されていく

「お前は――女か?男か?」

小屋の前に立っていた商人が僕に尋ねた
僕は一瞬だけ悩んで男性が進む道を指差す
フードで覆った僕の顔を訝しげに見ながらも、其方に通してもらえた

やっぱりこれは隠しておいたほうがいいかな
左に流した一房の長い髪を服の下へ追いやる
それ以外の短い髪は、フードの中に充分入りきる

部屋に入るなり衣服を脱ぐよう言われた
周囲には商人と警備らしき者が数人とはいえ、人前で素っ裸になるのは嫌だ
頭を横に振って、一番偉そうな奴に話しかけた

「貴方が望む物は一体何ですか?」
「お前何勝手に喋ってんだ!」

隣に居た男が喚く
それを悠々と椅子に座る男が手で制した
奴は僕を真っ直ぐに見つめ、笑った

「金以外に何がある」
「では僕と取引致しませんか」

この言葉に奴は眉を僅かばかりに動かした
僕はフードを取り顔を晒す

薄緑色の髪、青緑色の瞳
長い睫毛は下に流れ、肌の色は驚くほど白い
強く上がる眉に程よい赤みの唇

そして左に流した髪によって隠された目の下の2つの宝石

「本当に男かよ…」

ごくり、と唾を飲む音が聞こえた
男女なんて括りで物事を見るのは早計だと思う
美しく造られた像に男女の差なんて優劣に入らないだろう

「お前、名前は何と言う」
「…アイオスと申します」
「取引とは?」

奴が不敵に笑うから、僕は最大の微笑で返す
そしてすっと息を吸い込み声音を滑らかな物へと変えていく

「僕は文章学、詩歌、法律、哲学などに通暁し、音楽、算数、測地学、幾何学、古代人の寓話などにも深い造詣がございます。また厳正な学問を、つまり幾何学、哲学、倫理学、医学、修辞学、措辞法を学んだほか色々なことを暗記しました。加えて歌舞管弦を得意としており、僕が歌って舞えば人を惑わし、装いこらして香を炊き込めば老若男女問わず悩殺してしまいます」

澱みなく紡ぐ言葉に男達は驚き目を見開く
前口上程度をつっかえてたら話にならない

「僕を奴隷として売るのであれば、時の王へとお目通し願いたいのです。彼らを満足させる術を僕は持ち、其方は見返りとして十二分に望むものを得られるでしょう」
「ふん…一理ある、が、お前を捕まえ一生見世物にした方が儲かるだろう」

そう来たか。と内心で悪態を吐く
但しこれも想定内に過ぎない
本番は此処から。舞台の幕は今開かれたばかり

「ではコレをご覧ください」

服の裾を持ち上げ足元を見せる
足枷の部分を除いて、皮膚に蔓延る黒き斑点
今は腰元まで来ているはずだ

「頭コイツ伝染病持ちじゃ…!」
「いいえ。学をお持ちの方でしたら周知の通り、この病は決して伝染は致しません。但し清浄な場所へ移さねば身体を蝕んでいき、早ければ1週間で心臓を停止させます。つまるところ僕を労働させればさせるほど、病の進行は早まりあっという間に死んでしまい全く稼げません。逆にある程度清潔な場所で放っておき、時の王に渡せば…」

皆まで言わなくても奴は口角を片方上げた
部下達に命じて僕を部屋へと案内する
その途中、絶望に打ちひしがれる人々が見えた

「此処が一番良い部屋だな」
「どうも有難う御座います」
「…本当に男か?」

下衆の笑い声が背後から聞こえた
僕は振り返り一歩詰め寄る

「言い忘れていましたが、この病は空気感染はしない代わりに性行為では感染します。それでもよければどうぞご存分に」

さっと男の顔の血の気が引いた
そそくさと去ろうとする後姿に声を投げかける

「後で僕にも奴隷を見せてください。数人、いただきたいので」






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -