王とドラコーン将軍と、それとシャルルカンさんがこの国から出立した
僕はというと相変わらずの生活を送っている
特に仕事も無くふらふらと王宮内を彷徨う日々

政を手伝おうと思ったが、王が居なくなってからジャーファルさんはとても忙しそうで、手伝いを申し出る隙もなかった
居なくなった八人将の分まで残った人が頑張るから、捕まえてゆっくりお話も出来ない

こういう時、自分の無力さに気付く

無理もない
だって僕は弱くて脆いから
荷1つ満足に運べないし、剣を取れば転げ回る

歌と踊りしか能の無い
下等な、下等な生物

「っ!!」

パァン!と自分の頬を自分で叩いた
叩いた頬を押さえながら顔を顰める

あのまま考えたらいけない気がしたんだ
…あの時と同じ、胸に渦巻く何かが出てきそうで
最近少しでも気だるくなると思考が歪んでいく

ちょっとだけ腫れた頬を隠すようにフードを被って外へ出た

何もしないよりは、と黒秤塔へ向かって本を読む
幸いにも僕は字が読めるし読書は嫌いじゃない
沢山ある中からどれを見るか悩んでいると、1つ、床に落ちている物があったそれを手に取り眺める
タイトルは掠れて読み取れない
中身は目次から始まる、民族についての文献だった

「…ナーキス」

目次を指でなぞりながら探してみる
すると小さくその名が書かれていた
珍しい。大きな文献でも見かけないことがあるのに

机に広げて該当する箇所を覗いた
あっても僅か数行と思っていた僕の目に飛び込んだのは、何十行にも続く一族の概要

身体的特徴である薄緑の髪や中性的な顔立ち、そして無性で生まれること
魔力を作り出せない根幹的理由に、歴史の陰にあったナーキスの存在
事細かに記されたそれには僕の知らないことすらあった

「――魔力を、得る方法」

ひとつ、歌や踊りを使い人々の感情を昂らせ、源となる魔力を放出させ吸収すること
ひとつ、大いなるルフに愛される『マギ』から洗礼を受けると
ひとつ、性別に関係せず―――

「読めない…」

上から黒く塗り潰されている
誰だこんなことしたの。最低だな
眉を顰めて目を凝らしてみるけど無理

それにしても誰が書いたんだろうか
他の項目も見る限り、これは少数民族に特化した文献のようだ
証拠にファナリスの記述が極端に少ないし、逆に僕ですら聞いた事のない民族名がずらずら並んでいる

「あら?」
「ヤムライハ様」

続きを読もうとした時彼女が現れた
よく此処には居るって言ってたし、似合うなとは思う
攫われた翌日以来会ってなかったのでにこやかに挨拶をしようと微笑めば、凄い顔をされた

…自分で言うのは凄く嫌だが
僕が微笑めば大半の人間は喜んだり赤面したりするんですけどね
少なくとも女性にそんな顔されたの初めてで、すっごい傷付いた

そんな僕にはお構い無しに、彼女はつかつかと詰め寄り見ていた本を奪い取った
声を上げる間もなく恐らく魔法で所定の位置に戻される

「それまだ読んで、ああ…そんな高い位置に」
「あなたはいいのよ、読まなくて」
「ヤムライハ様は読まれているんですね。あの黒く塗りつぶしたのも貴女様ですか?」

僕が尋ねると彼女はきょとんとした
杖に乗って浮遊し、その状態で本を見ている
該当箇所を見つけて彼女は塔全体に響き渡るぐらい叫んだ

「どういうこと!?セレーナもしかしてっ」
「違いますよ。僕が見た時にはもうそうなってました」
「きゃああああああっ!!た、大変だわ。セレーナ早く部屋に戻って、信頼できる人しか入れちゃ駄目よ!ぜったいに駄目だから!鍵かけて一歩も出ないで!!」

色んな人がこっちを見てきてるけど
ヤムライハさんはそれどころじゃないらしく、僕の背中をぐいぐい押して塔から放り出した
何だって言うんだ。理由ぐらい教えてくれてもいいだろ

追い出されてしまった僕は渋々部屋に戻る
彼女が意味も無く部屋に籠れとは、言わないはずだから
ベッドに転がって天井を見上げていると扉が叩かれた

「はい」

開けずに答えると返事は無い
侍女なら一声かけてくる
少し身構えてもう一度「はい」と言うと、鍵ごと扉が開かれた

驚く僕の前に姿を見せたのはマスルールさんだった
見知った人だったことにほっと胸を撫で下ろす

「……」
「どうされました?」

彼は無言のままベッドに座り込む
ぎし、と鳴った音に何故か胸騒ぎがした
飲み物でも用意するべくベッドを降りたその時だった

ぐるりと視界が反転して赤い瞳が真っ直ぐ僕を見ている

強い力で肩を押さえつけられる
痛みに顔を顰めるはずが、瞳から逸らすことが出来ずただただ口を呆けさせていた






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