細い身体に纏う服を全て脱いだ
鏡に映る自分は、相変わらず平らな胸をしている
ただ1つ変わったとするならば

下半身に紛うこと無き男性器があることぐらい

異変を感じたのは今朝だった
年中自分の身体をまじまじ眺めているわけではないが、連れ去られたあの日は無かったはずだ
どうしてこうなったのかは理解できない

何故このタイミングなのか
何故男の方へと変わったのか

吐き出したい感情は胸中を醜く渦巻く
神様は皮肉だ。嫌がらせ好きのドSだ
折角、不思議な感情に目覚め始めたところだったのに

溜息を吐いて用意された衣服を着る
蒼と紅が織り成す素敵な踊り子衣装を
縁取られた金に眉を寄せた

「…あっ、だからか」

独り言を呟き顔を上げる
僕が彼女を見て放っておけなかったのは
きっと、そこに自分を重ね合わせたからだ

好いた相手の足手纏いにしかならず
祈ることしか出来ない弱い者

「――だけど、」



泣かないでほしい
君は僕と違って、女であり、望めば彼と幸せになれるのだから



「出立の前にひとつ舞わせてはいただけませんか」

整列された兵の前に僕は現れる
近くに居たドラコーン将軍に問われた

「今で無ければいけぬ理由でも?」
「詳しくは述べられませんが御座います。不躾な願いではありますが、どうか」
「…俺からもお願いできますか」

マスルールさんも進言してくれた
王はまだ、お見えになっていない
それも加えて許可が下りた

「お心遣い感謝します。それでは僭越ながら、関わる者全てに架かる夢を―――ほんの、一時だけ」

僕の背後では侍女達が固唾を飲んで見守っている
皆、恋人や家族、友人がこの中にいる
いや。そうでなくともこの国の人だから、きっと出立する人を心配するんだろう

そんなお人好しのために僕は踊る

怖くて怖くて震えそうだけれど
ぎゅっと自分で作り、首から下げた香り袋を掴んだ
息をゆっくりと吸い踏み出す



「君とわれ 奇しくも堅く 結ばれて
 澄みて輝く 美酒を 君に捧げぬ。
 にぎやかに 宴に興じ 興じては
 胸のぞめきに 心は浮きて 朝な夕なに
 憂いしも たえてなかりき。
 絃楽の 調べも妙に 玉杯は
 めぐりめぐり げに深し 快楽の夢。」

たおやかに、ゆるやかに
どうか彼女達の声を聞いて欲しい
待つ辛さを心に秘めて、笑顔を見せるその強さを

「星移り われらのきずな 裂かれては
 君遠ざかり、瞬時にて 天の恩恵も
 わざわいと 化し去りぬ。
 願わくば 別離の鴉の 声やみて
 相見る朝に 天日の はえある光
 とくわれに 拝ませたまえ。」



音楽なんて一切無い
僕が踏み込む音と、声だけが空へと突き抜ける
澄み切った青空の中ルフが飛んで弾けた

それは僕の身体に入ることなく空中を漂い続け
静かに、優しく、想い合う人のもとへと入っていく

「――今、確かに、」
「鼓舞の歌と舞い、しかと受け取った」

正気に戻った僕に将軍がそう言ってくれた
倣って兵も両手指を絡め、胸の前で合わせた 

「…それとコレは想いの品です。受け取っていただけますか」

僕の言葉に彼女達は我先にと飛び出した
その光景に目を細める
きらきらきらと輝くルフの、なんて美しいことだろう

「良かったねっ」

いつの間にかピスティさんが傍に居て、僕を見て微笑んだ
頷いて微笑み返す

「なんだ勢揃いだな」

王が少し遅れて姿を見せた
一同揃って礼をし、名残惜しみながらも侍女達は離れる
勇ましく進んでいく背中を見送った

「寂しいね…」
「はい。そういえば僕マスルール様に碌にお礼も言えないまま、行ってしまわれました…」
「…?俺は残ってるが」

驚きのあまり変な声と一緒にちょっと飛び跳ねた
もう見えなくなった兵達の行った方向と彼を見比べる
あ、あれ?将軍の傍に居たから、てっきり行ったんだとばかり

「マスルール君も行く予定じゃなかった?」
「まあ…色々と」

彼はそう言って何気なしに僕の頭に手を置いた
かあっと、瞬時に頬が熱くなる
う、わ。駄目だ。慌てて着替えてくると言ってその場から逃げた



どうしてとか分からない
理由とか理屈とかそんなもの必要ない
僕はきっと彼が好きで、愛しくて、願わくば僕だけを見て欲しいと切に思っている

それが叶わぬ夢だとしても

脱ぎ散らかした衣服の下にあるものを見たくなくて
瞳を閉じたまま僕は着替えた
布が少量の水を含んで濡れた

「男、だなんて、なぁ」

神様はこれを運命だというのでしょうか
抗い立ち向かえと言っているのか
それとも諦めて従順しろと言っているのか
どちらにせよ、今の僕は泣くことしか出来なかった







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