「セレーナ?」
「…っ、お願いですから、どうかアレを…!」

僕に近付かなければ彼らは自然と元の持ち主へ還っていく
震えを隠し切れない僕の頭に、布が被せられた
それを掴んで見上げれば、マスルールさんも来てくれていた

「顔色が悪い」
「…あなたもしかして」

彼の指摘に気付いたヤムライハさんが眉を寄せた
俯いて小さく「ごめんなさい」と告げる
溜息が聞こえてすぐ、僕は王の前へ連れて行かれた

「王よ。セレーナの踊りも歌も本当に素晴らしいものです。私達だけでなく国民皆にも見せる機会を設けられてはいかがでしょうか?」
「ヤムライハ様!」

何を言い出すんだこの人は
僕が諌める声を出しても彼女は気にしない
願いを取り消してほしい旨を伝えても、王はどこか遠くを見ている

「…ジャーファルはどう思う」
「財政に大きな負担が無いのであれば如何様にも」
「マスルールは」
「賛成ッス」
「珍しいな。じゃあそうするか!」

豪快な、屈託の無い笑顔
この時ほど王を殴りたくなったことはない
半分絶望している僕にヤムライハさんは笑った

「大丈夫よ。その時までに私が上手く魔法を考えるから」

女神のような笑顔で奈落の底へと突き落とされた



宴も終盤に差し掛かった頃
僕は貰った物の山の前で項垂れていた

喜ばしいことなんだ。本来なら、物凄く
だけど素直に手放しには喜べない

シンドリアに来てルフの澄み具合にとても驚いた
これなら少量でも大丈夫だと
実際は違った。澄み切ったルフを僕の身体は貪欲なほどに求める

以前と同じ量では足らない
もっと、もっと欲しいと身体が、心が訴える

「欲しい、な」
「何が」

驚いて顔を上げるとマスルールさんが居た
手には大皿があり、見た目鮮やかな料理が乗っている
それを机に置いて僕の隣に腰を下ろした

「食べろ」
「…いただきます」

深く掘り起こされなかったのは幸いだが
妙な沈黙が続く

「シンは多い」

食べ進めているとマスルールさんが唐突に言った
意味が分からず黙って聞いていると続けられる

「ヤムライハさんも。俺も少なくはない。先輩は無いが」
「あ…魔力の話ですか」
「それが欲しいんだろう?」

当たっているだけに何も言い返せない
分かってる。ヤムライハさんが多くてシャルルカンさんが少なくて
王は有り得ないほど魔力があるってことぐらい

宝石に触れない限りは2人は平気だろう
あれもジンであるアスモデウスを呼び起こすために、多量に取られたんだと言われたし
僕1人が生きるぐらいなら、でも

「そのせいで緊急時に対応できなかったら」

魔力を分け与えた所為で他の事が出来なくなってしまったら
例えば強大な敵が現れて、太刀打ちできない状況になってしまったら

僕1人の命の問題じゃない
王や八人将、そしてシンドリア国民全てに関わる

「平気だ」
「何故そう言い切れるんですか」

無責任に言葉を発する人は嫌いだ
心にも無い慰めは意味を成さないから

彼の発言に苛立ちを覚えて睨み上げた
すると予想外に顔が近くにあって、腕を掴まれ耳元で囁かれた

「―――えっ」

マスルールさんが告げた事が信じられなくて
目を見開いて説明を請う
だけどそれ以上は言ってくれず、お開きの花火によって強制的に会話は終了された

皿を片付けながら囁きを反芻する何度考えても信じれない
歌や踊り以外に、僕が魔力を得る方法があるかもしれないだなんて



その日は数日振りに深い眠りに就いた
苦しみも少なく、穏やかな夢を見る

兄や姉達と遊ぶ夢
小さな村で、時折両親は街に稼ぎに行って
その間家事をしながら皆で遊んだ

兄も父も全員髪が短かった
姉と母は凄く長かった記憶がある

1番上の兄は凛々しかった
楽器が上手で、よくルートを奏でてくれた
2番目と3番目の兄は悪戯が好きで、僕はよくそれに泣かされた

その度に2人の姉が頭を撫で叱咤してくれた
あまり泣いていたらこの子に笑われる
なんて、幼い赤ん坊を指差して

上には5人居た
下には1人居た
皆どうしているのかな
僕にはもう1人兄が出来て、とてもよくしてもらったんだ

会いたい。

みんなに、かぞくに、あいたい








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