「お嬢さん、そこのズボンを穿いたお嬢さん!」
「…え?」

お嬢さん。という単語が自分を指すとは思っていなかった
ズボンに反応して振り向くと、どうやら僕のことらしい
何かと近付くとお面を手渡された

「女性は仮面と一緒に花を配るんだよ」
「そんな風習があるのですか」
「ああ!生憎花は持ってないから、どこからか貰ってきてくれ。それとこれもあげよう」

小さく綺麗な小箱を差し出された
貰える物は遠慮せず貰っておく
礼を言って仮面と小箱を手にまた歩き回るも、どうにも話しかけられる

それはおじさんだったりお姉さんだったり、可愛い子供からだったり
ようやく王の姿を見つけ階段をどうにか上がって近付いた

「ようやく来たかセレーナ――だよな?」
「誰か…本当に、受けとめって、くださ、い…」

次から次へと物を手渡され、僕の腕は悲鳴を上げていた
シャルルカンさんが3分の2ほど持ってくれた
良かった、王に向かってぶちまけるところだった

「俺の見立ては間違いないな!」
「あら、セレーナ綺麗な格好してるじゃない」
「そうだろうそうだろう」
「貴方が威張ることじゃありませんよ」

僕としてはこの格好、非常に落ち着かない
何せ普段出ていない部分が丸出しなわけだ
…細い四肢が余計際立って見える

「細えなあ。ちゃんと飯食ってんのかよ」

荷物を置くとシャルルカンさんが僕の腕を掴む
自分でも細いと思うが、改めて他人に言われると気になる
シンドリアに来てから3食かなりの量を食べているんだが

縦にも横にも伸びない体
僕の民族は元々そういう風にできているんだろうか
だとしたら最弱にも程がある

魔力を造れない身体なら、せめて見た目ぐらい屈強に見繕ってほしいものだ

「セレーナたん可愛い!」
「有難う御座います、ピスティ様。しかし貴女様の可愛さには足元にも及びませんよ」
「…よくそんな台詞言えるよな」

シャルルカンさんが呆れた声で言う
綺麗なモノは好きなんだ
そういう点ではこの国は何もかもが綺麗で眼福

「っていうかセレーナとか超女名だよな」
「はあ」
「ん?アイオスとどっちが名前なんだ?」

目敏い。それも嫌なところに
言葉を濁しているとヤムライハさんが助け舟をくれた

「さぁセレーナ仕事の時間よ!」

ぐいっと腕を引き寄せられて連れて行かれる
小声でお礼を述べるとウインクされた

「アイオスは苗字ってことにしたら?」
「まあ…そうですね」

それが一番良い方法かもしれない
僕達は性別が決まるまで両方の性の名前を持つ
つまり、セレーナもアイオスも名前ってことだ

まあ奴隷云々の時は女名だと犯される可能性があるし
実際にいれる場所が無くても対象になる危険は冒したくない
ってわけで男名を使ってた

ヤムライハさんはそれを知ってて僕をセレーナと呼ぶ
王は僕を女性寄りの扱いをしている
彼女曰く本能らしい

シャルルカンさんは未だに僕を男性と思ってるみたいだ
ジャーファルさんは性別すっ飛ばした子供扱いなので不明
ああでもアイオスって呼ぶから、男の子かな

ピスティさんは多分女の子と思ってる
何でも同性の友達が少ないとか
ヤムライハさん伝手で紹介された時、瞳めちゃくちゃ輝いてたもんな

「では以降そういうことで」
「ええ。さっ、此処よ」

半ば放り出されたのは王の御前
既に顔を赤らめている彼が笑顔で僕を見ている
傍らにはマスルールさんも居た

「セレーナは踊り子なんだろう?あの日のように魅せてはくれないか」

びくっと肩が跳ねる
踊り…だけであれば、大丈夫かもしれない
あの日だって確か平気だったはず

僕は頷いて台に上がった
周囲には他の踊り子も居て、音楽が流れている
瞳を閉じ息を吸った

「永久に甘い幻想世界を―――ほんの、一時だけ」

普段身につけていない貴金属が音を上げる
ベールが視界を、体の周りを舞う
そんなものはすぐに気にならなくなる

人の声援も遠くに聞こえる
音も遥か彼方に消えていく
この踊りはシンドリアに住む全てのモノへ

そう思っていたのに踊る僕は一瞬だけ意識を現実に引き戻してしまった
マスルールさんが、微かに、儚く消えそうなぐらい微かに笑っていたから

あの日少しも表情を変えなかった彼が
込み上げてくる嬉しさに、自然と口が動いた



「絃かき鳴らせば、喜びは 我が傍近く訪れて、
 朝に早く酌む者は げにも妙なる酔い心地。
 恋知る人はおのずから おもてに色香を漂わし、
 帷を裂きてそのしるし 露わに外に示すなり。
 ああ、かにかくに清らなる かくまで愛しく、輝ける
 葡萄の酒を、太陽の 光にまごう童より
 酌みて飲むとは知らざりき。
 夜毎一さん傾けて 聖き恩恵に悲しみの
 頭の霜を消さんかな。」



即興で紡いだそれは音楽と混ざり合って空へと溶けた
ぱぁんっと弾けるようにルフが僕の身体へ飛び込んでくる

それにハッと目を覚まして歌と踊りを止めた
まだ宙を飛び回る彼らから逃げるように台を降りる
泣きそうになりながら、僕はヤムライハさんの後ろに隠れた







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