「アイオス様お早う御座います」
「うん…?」

瞳をうっすら開けると侍女が傍に居た
いくら呼んでも返事が無いから、失礼と思いつつ入ってきたらしい
何でも、ヤムライハさんから5分返事しなければ死んでると思え。なんて脅されたとか

「そこまで弱くないですよ、僕」
「ですがお顔の色が悪うございます」
「寝不足です。ふぁ…」

欠伸をしてから背伸びをした
新たな衣服を貰い、といっても僕のはいつも同じ服
身体のラインを隠すだぼついた一枚布にフードが付いた簡素な物

ああでも布地は凄く良い
肌触り良いし、通気性も抜群だ
着替えの時は出て行ってもらって、終わってから入れ替わりに部屋を出る

「…そろそろ仕事しようか」

いくらなんでもただ飯食らいはマズイ
そう思って仕事を得に知り合いを探しに塔を出た時だった

「っ、わ!」

横を武官が勢いよく通り過ぎた
普段なら「失礼!」の一言でも飛んでくるのに、今日はそれが無くて
僕は彼の後を追って大広間へ向かった

「―――分かった、では…おっ、タイミングが良いな」
「王よ、一体何が?」
「ついて来ればすぐに分かるさ」

それ以上はいくら尋ねてもはぐらかされた
横に居たジャーファルさんにも促され、街を一望できる王宮のとある場へ辿り着く

ドーン、ドーン!と鐘の音が響き渡る
位が高いであろう人々が次々と現れ、それに国民が大いに湧く

「アレが今日の獲物ですよ」
「え…っ!」
「アバレウミガメだ。そうだな…ジャーファル、マスルール頼んだぞ!」

王が指差したのは人の何倍も、何十倍もある巨大な生物
確かにシンドリアにはああいった生物が生息していると聞いたけれど、航海途中には見なかったから、所詮噂ぐらいにしか思っていなかった

名を呼ばれた2人は、手を組んで「仰せのままに王よ!」とそちらに向かって行く
人々は歓声を上げて2人を応援している
どくん、どくんと心臓が高鳴るのが分かった

「―――凄い」

巨大な生物を、ジャーファルさんの武器が翻弄し縛り上げていく
それでも暴れ踏み潰そうとする足をマスルールさんが受け止める―――それも片手で

連携して空へと打ち上げ、それよりも遥か高くに飛んだマスルールさんが蹴りを頭部に叩き込む鮮やかで素早く巨大生物は仕留められた

「どうだ、2人の腕前は」
「凄いです。ジャーファル様の動きは本当に軽やかで、被害だって最小限に食い止めて、けれど人の視線を惹きつけて」
「このぐらい出来ないとシンを見張れませんよ」

興奮冷めやらぬ僕の元に、正確には王の下に2人が帰ってきた
聞かれていたのはアレだが本当に凄い
無駄のない錘使いに的確な指示
いつも忙しなく働いていて、とても頭の良い人だとは感じていたが、文武両道だなんて凄すぎる

「…でも、」

僕は小さく呟いた
心臓がどきどきうるさくて仕方ない
2人を見ていたはずなのに、脳裏に移るのは赤い髪の彼ばかり

圧倒的な強さが全てを凌駕した
単純に掴み、持ち上げ、投げ飛ばし、跳び、蹴り降ろす
それだけの動作に力が加わるだけで言いようのない感覚が僕を襲った

それは、最弱民族が故の憧れだったのかもしれない

全てを捻じ伏せるその力に、ひどく惹かれた
けれど言葉でどう伝えたら良いか分からず押し黙ってしまった
その間に周りは着々と準備を始めていく

「王、何が始まるのですか?」
「南海生物が現れた時は謝肉宴という宴を行うんだ」
「宴…」

豪華絢爛な何かが浮かぶ
でも詳しくは分からない

「セレーナもたっぷり楽しむといい。そうだ、服も用意しないとな!」
「服ですか?」
「謝肉宴はこれを着る決まりなんだぞ」

手渡された服を用意された部屋で広げる
布面積…少ないな、これ

胸周りを覆う細い布を着る
その上から首元から垂れ下がり、両脇に分かれ後ろで輪になる物を被る
一緒に渡された首輪らしきもので固定するようだ

ズボンは短く太股の半分もない。裾周りは刺繍され、腰周りには煌びやかな貴金属のチェーンがある
…此処までは理解できたが後の貴金属類がさっぱり分からない

「アイオス様お召し物の方いかがですか?」
「あ、ちょうど良いところに…少し見てもらえませんか」

声がしたので侍女の子を招き入れる
躊躇うような声がしたので理由を尋ねた

「いつも手伝いは不要とのことでしたし、何より殿方の…」
「服は着終えてます。別件です」

殿方という単語に突っ込みをいれたくなったけど
まあ今はそんなことよりも貴金属類の付け方を教えてほしい

「コレは左手首に。こちらは右上腕と右手首、そちらは足ですね…」

1つ1つ丁寧に付けられていく
左手首には花と小さい貴金属のチェーンがついた腕輪
右上腕には金の輪が3つ、手首には真珠だろうか。丸く白い珠が連なった腕輪
左足首には脹脛中ほどまである模様の付いた足輪
右足首はまた別の模様を象った短い足輪

首元には更に大きい楕円の金の首飾り
長い前髪を止めていた紐には南国独特の花が添えられる
そしてその上から膝下までの端に模様がある透明のベール
頭部の両端に貴金属の金具とチェーンで固定される

「まあ…素敵ですアイオス様!とてもこの世の者とは思えません」
「…1つ気になるのは、コレは男女どちらの衣装で?」
「そちらは王が特注で作られたので貴方様のためのものです」

うっとりとした瞳で語る彼女に、今出来る精一杯の笑顔で礼を告げた
どうもこの国に来てから感情が素直に出て困る。特に苦笑と呆れ
部屋を出て王を探しに歩き回る







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