「…おぇ」
「セレーナたん!王サマが呼んでるよぉ〜」
「ピスティ…様」

ちゃっかり僕の腹の上に乗って彼女は無傷である
小悪魔的ウインクを見せてからそこを退いてくれた
立ち上がって服に付いた芝生を払う

「マスルール君も呼んでたぞ」
「…了解っす」

大中小と兼ね備えて大広間へ向かった
扉を開けば、いつもの荘厳さはどこへやら
軽快な音楽が大広間に響き渡る

綺麗な女性や奇怪な格好をした男性
この国では見かけない動物や奇抜な衣装に身を包む子供
一瞬にして異世界に変わった空間に、皆歓喜の声を上げている

「街で話題の大道芸団が来てたからねっ」
「それで…わざわざご丁寧に有難う御座います」
「堅苦しいなぁ…まあいいや、座って座って」

促されるままに近くの用意された席に腰掛ける
両隣をマスルールさんとピスティさんに挟まれて、何か落ち着かない

「シンドバッド国王陛下!此度はお招きいただき有難う御座います!」
「恐れ多くも私達、最高の芸をお見せ致します」
「ああ、楽しみにしてるぞ」

王への挨拶が済めばすぐに遊戯は始まった
踊り1つにしても僕がやるものとは全然違う
豪華な装飾。舞い上がる羽や花弁。愉快な言葉と動き
酔いしれるというのはこういうことなんだろう

「凄い…、凄いですね、…マスルール様?」
「――ああ」

喜ぶピスティさんとは対極的にマスルールさんは渋い顔をしていた
煌びやかな物は好まないのか
その表情が気に掛かって、後の芸はよく覚えていない
盛大な拍手と共にいつの間にか終わっていた

「流石だな、今夜は此処に泊まっていってくれ」
「有難きお言葉感謝致します」

王と話しているはずなのに、何故か男性と目が合った
目を逸らしてフードを深く被る
男性は一言断ってから僕に近付いてきた

「こんにちは、美しきお方」
「…こんにちは。バラ水がお似合いの眉目秀麗なお方」

にこりと道化の彼は微笑んだ
僕もそれに礼儀として微笑み返した

「聞くに貴方様も踊り手と。見れば納得のいく美しさで」
「ご冗談を。僕はただの力無き難民にしか過ぎません」

どうして嘘を吐いたかは分からなかった
ただ、いつもなら見えるルフが、彼の周りには全く見えなくて
それだけが怖くて出来るなら早く口を噤んでしまいたかった

「いやしかし、その面立ち―――」

何気ない動作だった
脈絡もなく伸ばされた手が僕の左頬を掠めようとした
瞬間、背筋に悪寒が走って後ろに倒れこんだ

僕自身が仰け反ったのが半分
マスルールさんが大きく後ろに引っ張ったのが半分
衝撃は引っ張ったついでに抱えてもらったおかげで無かった

突然の行動に男性は驚いて
…そして笑って「いや、失敬」と言った

「またの機会にお話ししましょう」
「…ええ。是非」

踵を返す背中を見詰める
口を開いたのはピスティさんだった

「なんか嫌な感じだよね」

その言葉に驚いたのは僕だけでなくマスルールさんもだった
だって、さっきまであんなに喜んで大道芸を見ていたから
僕らの表情を見て彼女は頬を膨らませる

「2人とも失礼だな!」
「あー…いえ、何故そう思われたのですか?」
「んー、女のカン?」

歳、多分僕と変わらないかそれ以下だと思うんですが
まあ余計なことは言わず黙っておく

でも確かに頬に触れられかけた時が嫌だった
嫌がる僕を見た時のあの笑顔も引っ掛かる

「よーしマスルール君はセレーナたんを部屋まで送り届けなさい!」
「…はあ」

見た目的にファナリスの方が年上な気がする
でも素直に命令を聞いてあげるあたり微笑ましい
何となく1人で部屋に帰る気にはならず、お言葉に甘えて送ってもらった



深夜ベッドの上で息を荒げる
快楽を貪って、ならどれだけ良いだろう

じわじわと足元に広がる痛み
胸を裂くような苦しみ

いくら綺麗にした所でルフを得られなければ死んでしまう
気にするなと告げられても、どうしても出来なかった
この数日間で得たのはほんの僅か

「っ、っげほ!はっ、ぁ」

噎せ返して肩で呼吸する
日に日に体力は衰えていく

自分の命と他人の命
前なら天秤にかけるより早く、自分を生き永らえさせていたのに
許された途端それが酷く嫌になる

「へっいき、だい…じょぶ、約束っした、んだ…!」

大きく深呼吸を繰り返し、夜が明けるのをひたすら待ち続けた
いつしか疲れ果てて眠るまで、ずっと








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