「しっかしなんでジャーファルさんが…」
「私が呼んだの」

柱の陰からヤムライハさんが出てきた
腕を組み仁王立ちをして、折角の綺麗な顔を歪ませて

「いい加減にしなさいよね!セレーナは特別なんだからアンタの勝手で振り回さないでちょうだい!」
「っと、やむっ、くる…っ」
「振り回してんのはお前だろうが!」

ぎゅうっとヤムライハさんに抱き締められる
強く引っ張られたから体勢を崩して、豊満な胸に片頬押し付けられてる
うーん、男だったらこれは幸せなんだろうなぁ

とか考えてたらヒートアップしたのかシャルルカンさんにも腕を引っ張られる
小競り合いの内容は僕からかけ離れた物になっているというのに

今度こそ本気で逃げる術を張り巡らせていると、隙間から赤い髪が見えた
息を深く吸い込んで、短く強く太く声を発する

「きゃっ。あ、セレーナ!」

驚いて力が弱まった瞬間逃げ出す
そう遠くない距離に居た彼の後ろに隠れた

「痛いのは僕苦手なんです」
「…?」

壁代わりにされた彼は首を傾げた
尚言い争いを続ける2人を見て、すぐに納得したみたいけど

「申し訳ございません、マスルール様。少し匿っていただけますか?」
「ああ…。…」

頼み事を引き受けてくれたけど、やや眉を寄せた
思い当たる節が無いので尋ねると返ってきたのは意外な答え

「…敬語」
「ああ!それはヤムライハ様もマスルール様も、八人将という尊い方々ですから、以前が失礼極まりなかったことであって…」

そこまで言って僕は口を噤んだ
じっとマスルールさんに見下ろされていたからだ
シャルルカンさんでも怖いんだけど、それよりも身長差は遥かにあって、頭1個分以上違う人間に見られたら無意識に身も強張る

「…では就業時間以外は元の口調で」

仕事全くしてないにしろ、せめて就業時間ぐらいは公私の区別を付けたい
本人達が気にしていなくても周りの目というものもあるし
そこは渋々許可を貰って、改めて匿ってもらう

「時にマスルール様、業務は…」
「さあ…?」

何故語尾が跳ね上がる
行く当ても無くふらふら彷徨う彼の後を追ったのは間違いだったかな

僕は八人将の方々を、1度は全員見ているけど各々の職分は分からない
ただ鎧を着けてるってことは武官的位置だと思うんだが
この人が他人に稽古つけてるとか、鍛錬してるとか、そういうの見たこと無い

「ひっ!」

中庭に出るとあの巨大な鳥が数羽待ち構えていた
思わず悲鳴を上げて後ずさる
僕に構わずマスルールさんは鳥の傍に腰を下ろした

鳥達は彼には従順らしい
餌を貰って喜び羽ばたいている
少し離れた位置に僕も座った

「大丈夫だ、襲わない」
「前例がありますから…」

本音を洩らすと数拍置いてマスルールさんが顔を逸らした
どうしたんだ、と考えるまでもなく自分で理解する

あの時裸見られたんだっけ…
でもその後も見せてるし、大丈夫だろう
自分自身に言い聞かせながら間を詰める
鳥は僕を見てくるけど、確かに襲ってはこなかった。見てくるけど

「きっ、綺麗な鳥ですね」

沈黙に耐えれず話しかけたけど、曖昧にしか返事は来ない
寡黙そうな人だから仕方ないか
落ち着かない僕の眼前をルフが羽ばたいた

白くて優しいルフ
隣に居るマスルールさんからのだ
それを見ると心が和らいだ

「夢に見ぬ 空舞う鳥を、
 愛の園 笑みて輝く
 花々を 装いてあり。
 まことわれ 思いをとげし
 暁に 夢見しことの
 違わぬを とくと知るべし…」

詩歌を口ずさむとルフがすっと消えた
僕の体内に入ったんだろう
奪ってしまったことに気付いて、瞳を伏せた

「歌が好きなのか」
「はい。でも…」

歌えば歌うほど、踊れば踊るほど
ルフを奪い災厄を撒き散らす
此処の人達から奪うことはあまりしたくない

「気にするな」

表情こそ変わらないけれど
彼の声色は驚くほど優しくて、僕はその顔をじっと見詰める

「鳥も大人しくなるしな…」

言われて見ればあれだけ羽ばたいていた鳥達が、羽を休めて地面に伏せている
確かに大人しくなってる。見てくるけど

「あの」

ありがとうございます
礼を述べようと口を開いた時、後ろから誰かにタックルを食らった
咄嗟に体を捻ったけど抱きついてきた人物と一緒にごろごろ転がっていく







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