「で、俺に謝罪の言葉は無いのか?ジャーファル、翡翠」
「無い」
「申し訳御座いません…シン…」

大広間に呼び出されたと思えば正座をさせられ彼是数時間説教され続けている
いい加減飽きてきたので帰りたいものだが、隣に居るジャーファルが一向に逃げる素振りが無い

「王、犯人を捕まえてくださったんですからそれぐらいで…」
「セレーナは甘い!見ろ!ジャーファルはともかく翡翠は全く反省していないぞ!」
「騒ぐな、響く」

呆れて溜息を吐けば余計騒がしくなった
何を謝罪しろというのだ、この王は
私自身が招いたとはいえ通り魔を捕まえたというのに

「こんなことのために私は謁見を申し出たのではないのだが」
「マイペースすぎるぞお前…」

謁見の日取りが早まったのは有難い
だが本件に全く進めん
本音を洩らすと、とうとう静かになった

「…俺はあの人からお前を預かっているんだぞ」

妙に真剣な面立ちでシンドバッド王は言った
あの人。私が連れて行かれるその時もそう言っていた

「まさか――陛下が…?」
「ああ」

立ち上がろうとすると少しよろけた
傷は増えていくばかりで殆ど治っていない
特に短期間で大量に出血したせいか、貧血症状に苛まれる

眩暈に立ちくらむとジャーファルが私を支えた
礼を述べ、今一度座りなおす

「煌帝国は翡翠様を狙っています。此度の襲撃もその一環です」
「殺害ではなく連行の理由は」
「お前が金属器や眷属器を使わずして、実力があるからじゃね?」
「大方ジュダルが見て気に入ったんだろう…」

はあ、とシンドバッド王が溜息を吐いた
周囲に居た者も同じように吐いたり、どこか遠くを見ていたりしている
詳しくは知らぬが、煌帝国に居るジュダルという名の者が事の原因だとは理解した

「それでよ翡翠、お前どうすんの?」
「やっぱり帰っちゃうの?」

シャルルカンとピスティが詰め寄ってくる
傷が完治するまで、等と耳元で喚くが軽く無視をした
座ったままではあるが右手を左胸下に、左手を無理矢理背へ移動させ軽く握る

「シンドバッド国王陛下。此度はひとかたならぬご厚情を賜り、有難くお礼申し上げます」

驚く顔が視界の端に映る
無理もない。あれほどにまで嫌がっていたのだから
だがなんだ、少し驚きすぎではないか

「多少は隠せ痴れ者が」
「あっこれこれ!」
「だよねー!これが翡翠たんだよ!」
「少し向こうにお行きなさい2人とも…」

ジャーファルに諌められ2人は元の場へ戻った
改めて向き直り言葉を続ける

「そうとは知らず数々の非礼、まことに申し訳御座いません」
「構わないさ。色々ひっくり返したのは事実だからな。なっ、マスルール!」
「はあ…」

突如話を振られてファナリスが曖昧に返事をする
…覚えていないだろうという苛立ちは飲み込んだ

「つきましては心身ともに鍛え直すべく、我が祖国ピューガァマ国への一時帰国をお願い申し上げます」
「ううん…そうだな…」
「シン、私からもお願いします。彼女を一時きこ…く?」

ジャーファルが此方を向いた
それを真っ向から見つめる

「一時帰国だがそれがどうした」
「いえ、てっきり完全に帰るのかと思いまして」
「陛下が折角授けてくださった鍛錬期間だ。鎧や結い紐や寝巻きは向こうにあるから取りに帰らねばならんだろう」


何より私が煌帝国に狙われているのであれば、自国に戻るのは危険だ
今回の者ですら1人で対処し切れなかった
シンドリアには私よりも強き者が多く居る
ならば此処で腕を磨き、それから帰れば良い

「しかし…ピューガァマ国が」

目と鼻の先にまで迫っている侵略
それに対しての不安が無いわけではない

「ひとつ手がある。それを使う」



数日後、帰国用の船がある船場へ行く
港には早朝にも関わらず、宮廷音楽家とファナリスの姿があった
ファナリスの方はやや眠たげではあるが

「お見送りに参りました」
「すぐに戻ってくる」
「ですが寂しいでしょう?」

女の言葉に少しだけ考え込む
寂しい、と言うよりは物静かと捉えるべきか
私の考えを読んだのか女は笑った

「いってらっしゃいませ」
「気をつけろ…」
「せめて目を開けて言え!」

最後にファナリスを叱咤して船に乗り込んだ
手を振る姿が遠くなっていく
南海の島国、シンドリアも

「どうしました、翡翠」
「…っ!な、何故お前が乗っている!」
「シンから其方の陛下に渡し物を頼まれたので」

それなら私に頼めば良いだろう…!
苦々しい顔をすると、ジャーファルは微笑んだ

「お茶でも飲みますか?」

緑のクーフィーヤが海風に靡くのを見て、私は小さく頷いた






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