「答えろ。何故そこまでして執着する」
「欲しがってる国や人が居て、俺の昇進がかかってるんだ」

下衆が。吐き捨てるように呟き、残った兵の武器を叩き落すように振り払う
…以前なら躊躇いもなく殺していたのにな
我が道を邪魔する者は全て

「殺さないのか翡翠」
「五月蝿い」
「殺せなくなったのか、腰抜けだな」

刹那奴の顔が近くに現れる
同時に胴を横に切り裂くように剣が振るわれた
瓦礫を蹴って辛うじて避ける
鎧に一線が付いた

「ぎゃははははは!!傷付いた!ふふ、ははははは!!!」
「…コイツ昔からこうなわけ?」

高笑いを始めた奴に、子供が呆れ顔で尋ねてくる
おかしい。誰がどう見てもだ
狂ったように笑い続けるような精神ではなかったはず

キラリと剣が光った

刃ではなく柄が光るなんて
目を見開く私の後ろから叫び声が響いた

「離れなさい!」

問う暇など無かった
柄を中心として何かが集まっていく
身を翻し、子供を担ぎ上げ、あらん限りの力で走る

「俺は強くなったんだよ…女のお前なんてぐちゃぐちゃにして血で飾ってやれるぐらいにな!!」

天を裂くような轟音が雷撃と共に放たれる
紙一重で避けたつもりが、僅かに右足を掠った

「くぁ…っ!」
「翡翠!」

倒れこむ前に前方に見えるジャーファルに向かって子供を投げ渡した
全身を電流が駆け巡り、痛みと痺れで足が縺れ転ぶ
それは無差別に放たれたのか遠く離れた建物すら壊した

「――しまっ」

他の子供達が何処に隠れているか分からない
アレを避け続ければいつかは下敷きになる
だが、直接受け止めるなんてこと

「へーえ…あのおっちゃんやるな」
「暢気なことを…君は向こうに隠れてなさい」
「アイツの狙い俺だけど」

剣を支えに立ち上がる
追撃は来そうにない
どうやら1発打つのに時間を要するようだな

「そいつは頼んだ」
「1人で突っ込む気ですか」
「避けさえすれば勝機はある。如何なる魔術の類とて、完璧なものは存在しない」
「――分かりました。それでは」

子供を下ろし、すっと錘を構えた
言わずとも理解できるとは物分りが良い
日頃どれだけ上や周りが自由なのか、よく分かるな

「ははははははっ!!」

奴の高笑いが再び聞こえ暗雲が立ち込める
それを合図に私は走り出した
かわしきればいい。後ろのことは全てジャーファルが何とかしてくれる

長い剣ではなく背にあった短剣に手をかける
波打つそれに切られれば、縫合できぬ傷を負わせれる

「ふはははははくたばれ翡翠!」

…憐れだな。力に取り付かれ欲に塗れるというのは
一歩間違えれば私もああなっていたのだろう

真っ直ぐに、私を目掛けて雷撃が地面を這う
先程よりも速い
避けきれない、なら、

「この…っ!」

短剣を垂直に振り下ろした
切り裂いてしまえ。私の道を邪魔するものなど、全て

衝撃波と爆音が周囲に響き渡る
視界が一転して霞む
気を失ったにしては明るく、そして私の足はしかと地面を踏み締めていた

「うぇっげほ!ひっで砂食った!」
「怪我はありませんか?…一体何が」

がらがらと瓦礫の崩れる音がする
自分でも何が起きたか分からず、一歩、また一歩と前進する
突風が巻き起こり砂煙を払い除けた

「なんだよお前…なんだってんだ…」

皹の入った剣を支えに肩膝をつく奴の姿があった
その表情は酷く脅えていて、私の瞳を見ている
近寄るごとに悲鳴は大きくなっていく

「――勝負あったな。貴様の負けだ」
「寄るな化け物!」

歩む足を止めた
もう近寄らずとも見下せる距離には来ている
気でも触れたか、とうとう折れた剣を奴は必死に構え振り下ろす
光った部分には八芒星が描かれていた

「…?」

気持ち悪い
素直にそう感じた
今でこそ僅かにしか感じないが、これは人間が持つべきではない物の気がする

「奇跡的に生きてたぞー」
「どうしたんですか、これは」

2人が現れ私と男を交互に見る
私は答えずに奴から剣を奪い取り、眺める
見れば見るほどに気持ち悪い

「っ、あまりそれに触っては…!」
「?まあ気持ち悪い物ではあるし――」

手にあったそれが砂になる
ざあっと風が舞い上げ宙に消えていった
長年置けば剣とて風化はするが、こんな一瞬で

「闇の、金属器、か…おっさんはもう駄目か」







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