必要な物は全て纏め身支度を済ませた
ジャーファルも元の官服に着替え、陛下からシンドバッド王への返事をいただいた
滞在を延ばす声もあがったが気にしておれん

「では行きましょうか」
「ああ」

陛下の居られる王宮を見上げ自国の礼をとった
煌々と輝くこの日の光景を、私は忘れやしないだろう

「行って参ります、陛下」

貴方様の命を胸に
私は門をくぐった



「さて帰路だが、迂回せざるを得ないな」
「ええ。行き道は貴女が華麗に壊してくれましたからね」
「…仕方なかろう」

道中盗賊が現れ、快眠を妨げられたことに苛立ち壊滅させた
そこまでは良かったが乗せてくれていた商人隊に恐れられ、周辺地域には噂が回ってしまった

「盗賊より恐れられるなんて流石です」
「また皮肉か。お前性格悪いぞ」
「よく言われます」

姿形も言われているから、行きに通った街や村では半お尋ね者状態だろう
地図を見ながら大きく右に中央砂漠方面へ偏りつつ向かう

しかし徒歩でというのはなかなかの苦行だ
砂漠に近付けば近付くほど、照り付けるような熱さが襲う
暑いではない。熱いのだ
何せ鎧は金属であり、光を注がれるほどに熱を持つ

「休みましょうか?」
「修行、だ」
「貴女の言葉がどんどん短くなっていくのが不安ですよ…」

遠くに目を凝らすと彼方がぼやけて見える
いかん、幻覚まで見るようになったか

「砂漠の中に街が見える…」
「えっ。あ!助かりました。さあ行きましょう!」

途端ジャーファルは元気になって私の右腕を掴み足を速める
そこは砂漠に存在するオアシスだった
幻覚ではなかったことに安堵して、足を踏み入れる

「翡翠」
「ああ」

すぐに背中を合わせ剣を構える
静か過ぎるその街は、人の気配だけが不気味に漂っていた
砂が巻き上がった瞬間路地より数人飛び出てくる

「…ふんっ」

柄や鞘から手を離し左足を空気を裂くように蹴り上げた
男の手にあったナイフが宙を舞う
すかさずそれを取りにかかり、掴んだと同時に振り返り投げた

ナイフは金属音と共に別の男のナイフを弾き飛ばす
驚く男をジャーファルが捉え、先端の錘が首筋に迫る
周囲の者の動きが止まった

「殺されたくなければ武器を捨てなさい」
「2対100でも敵わぬと悟れ」

男達は互いに顔を見合わせ、大人しくその場に武器を置いた
格好は貧民街に住む者よりやや良い程度
どれに話を聞くか悩んでいると、体格の良い男の後ろから貧相な子供が現れた

衣服は周りの者と同じ掠れた生成のもの
短くぼさぼさの髪は黒く、瞳は深い藍を彩っている
やや褐色の肌は薄汚れていた

「お前シンドリアのジャーファルとピューガァマの翡翠だろ」
「貴様は誰だ」
「ボス。――って周りは呼んでる」

子供のわりには態度がでかい
私がこのぐらいの時は………まあ陛下以外には差し当たって変わりはなかったな

「私達は争いごとをしに来たわけではありません」
「別に来た理由なんてどうだっていいさ。俺達は身包み剥いでかなきゃ生きてけないんでね」

その言葉に子供を射竦めてみたが態度は変わらない
殺気は無いが警戒だけは続けておく

「まあ命あっての物種だし、お前らはいいや」

聡いのか愚かなのか読めない
追い払う手付きに眉を寄せる

「へっ良かったなボスの機嫌が良くてよぉ!お嬢ちゃんたちいいいああああああああ!!!」
「程々にしておけ」
「折りはしません、折りは、ね」

見紛われるのが嫌ならば、せめてその官服の下に長ズボンでも履けば良いものを
ジャーファルが男を強く締め上げたことによって周囲が殺気だったが、一瞥して荷を背負い直す

「で、何処だ」
「はっ?」
「お前達の根城は何処だ。案内しろ」

鋭い瞳を見開き瞬きを繰り返す子供に溜息を吐く
叫ぶ男に近寄って、謝罪の言葉を述べるよう告げた
ようやく静かになり改めて子供を見る

「お前達の所為で余計な時間をくった。このままでは砂漠の中眠らねばならぬ」
「…寝床寄越せってかよ」
「一晩貸すなら多少は食料を与えるが」

幸いにも食料だけなら多量にある
どちらかというと水の方が危ないのだ
荒廃していてもオアシスであるならば、水ぐらいは多少あるだろう

「…分かったよ」

子供が踵を返しそれに大人達がついていく
私達も倣って後を追った
崩れかけた建物が多く立ち並ぶ中、まだ辛うじて綺麗な物に案内される

「お前ら帰ったぞー!」
「ボスっ!」
「おかえりなさいっ」

きゃいきゃいと騒ぐ声の殆どは子供だった
ボスと呼ばれる奴ですら、12にも満たない背格好であるにもかかわらず、纏う者はそれより更に幼い

「…おかしいですね」

ジャーファルが呟く
子供の数に対して大人が極端に少ない
特に女の姿が殆ど見当たらない
ふと隣に居る男が私を睨んでいるのに気付いた

「なんでよりによってピューガァマの奴をよぉ…」
「文句があるならば目を見て最後まで言え」
「お前の国があいつ等を連れてったんだろうが!!」

襟元を掴みかかられ引き寄せられる
怒号に眉を顰めつつ、相手を見据えた

「ああ…そういうことか」

合点がいき独り言を洩らす
今朝方ジャーファルの部屋に居た女の中に、近隣では見かけぬ肌を見た
王宮内に女が蔓延っていると思えば連れてきていたのか

「此処は昔中央砂漠有数の商業国家であった場所です」
「シンドリアの文官様は学が違うね〜。でもそれも十数年前の話で、今じゃこの有様だよ」

いつの間にか椅子に堂々と座る子供の言葉に、男達が歯を食い縛った
私を掴む手も緩やかになり、力無く離される

「飯食おうぜ。お前ら用意しろ」
「はーい!」

わらわらと荷に群がる子供達に、いくつかの食料を手渡した
夕餉の支度が行われている間ジャーファルの隣に行き尋ねる

「お前分かっていて此処に来たな」
「シンから色々頼まれていますから」

にこりと微笑むそれは、流石シンドリアの文官殿と言わざるを得なかった
国を出ようとも全く忠臣を崩さないのは敬服する
詳しくは聞かぬが、恐らく文の受け渡し以外にもいくつか請け負っているのだろう

「できたよーっ」

幼子の明るい声が響き渡る
渡した物の殆どが煮込まれている気がするが、まあいい
一口啜ると妙に甘い

「果物も煮込んだな」
「…」

ジャーファルが無言のまま食べ進める
私は食えればそれで良いが、シンドリアの美食を多く口にしている者には厳しいか
別に不味くはない。甘い。とにかく甘い

「意外といけるが」
「えっ。…ああ、そうでしたね」

納得されたのはラペイエばかり好んで飲んでいた所為か
ひとつ誤解を解くならば、食物には砂糖や練乳を振り掛けない

食事を取り終えれば子供達はすぐに眠る
毛布などは無いため外の冷え込みから身を守るように寄り添っている
それを眺めていると、建物内の小部屋に呼ばれた







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