人口凡そ150万人
内陸部にあるその国は、寺院で溢れ返っている
我が祖国の最大の特徴はその身分制度

世襲制ではあるが実力主義も兼ね備えている
親が偉大だからといって、子が何もしなければ地位は下がるばかり
逆もまた然り。親が愚鈍であれ子が優秀ならば出世する

そして奴隷には大きく分けて2種類存在する
人の下に付き従う従来の奴隷と
俗世から離れあらゆる知識を学ぶ修行僧のような奴隷

町はそういった者で埋め尽くされている
国が出来た頃は、多量の宝石が取れ栄えていたと聞いた
しかし今では一部の者が利益を貪るばかり

「気をつけろ。その額の飾りも盗られるやもしれん」
「…分かりました」

私が鎧を付けていれば防げるのだが
シンドリアで借りた衣服では、良くて旅人である
なるべく不埒な輩の居ない道を選んで王宮へ向かう

「おいそこの姉ちゃん達よー」
「相手してってくんねえか?これぐらいで」

安全であったはずの道を選んだというのに
私の倍はありそうな男達が道を塞ぐ
溜息を吐いて、呆れた顔で私は奴らを見上げた

「負かせれるならば、な」

抜刀し、剣ではなく鞘の方を顔面にぶち当てる
いくら私が最高廷武臣であろうとも無益な殺人は罰せられる
巨体が地面に沈むと、他の者が一斉に襲い掛かってくる

それら全てを束ね上げる赤い紐

「くだらん。弱いな」
「気絶程度で良いのですか」
「殺人は刑罰物だ。…だからだな、女と捉えられたことに怒る気持ちは分からなくもないが、やめろ。こら聞け、人の話を聞けジャーファル」
「…チッ」

絞め殺そうとするジャーファルを止める
舌打ちをしてから紐を緩め、地面に転がし蹴飛ばした

身長が私に近いこと
顔立ちが私より幾許か優しいこと
一人称が公私関係なく『私』であること
これらのせいでジャーファルは度々女に間違われている

じっくり見れば男と分かる気もするのだが
黄色いシンドリアの官服や、裾の中に手を隠す行為などが助長しているらしい
しかし私自身170cmほどあるのだが並んでいるのが駄目なのか

「行くぞ」
「全く…」

文句を言い始めたジャーファルを置いて先へ進む
20分ほどで王宮の正門前へ辿り着いた
時にすれば1ヶ月ほどにも関わらず、懐かしい気持ちになる

「待て!許可は得ているのか!」

正門を潜ろうとすると門番兵に止められた
目の前で槍が交差する

「…よもや上官の顔まで忘れたとは言わせぬ」
「なんだと。世迷言も大概にしろ。女が上官なはずがないだろう!」
「そこに居直れ!!右脇を開けすぎる癖はまだ直らぬのか!!」

先程と同様に鞘で右脇を強く押す
片方が悲鳴を上げ、もう片方は驚いた顔をした

「翡翠様でしたか…!申し訳御座いません!」
「陛下の元へお目通りかないたい。机上の空論共を呼べ」
「はっ、今すぐに!」

ばたばたと立ち去る姿に嘆息を洩らす
後ろに居たジャーファルが苦笑した

「良き部下ですね」
「皮肉か。嘆かわしい…髪を下ろし衣服を変えただけで判別付かぬとは。起きろ、そして働け」
「うう…」

攻撃した部下を立ち上がらせ引き続き門番を命じる
門を通り金色の王宮を見据える
ジャーファルには応接間で待つよう伝え、1人で自室に向かった



私物は殆ど無い殺風景な部屋
磨き上げた武器の殆どは、光沢が鈍くなっていた
僅かばかりの衣装が入った箪笥を開き着替える

王宮のそれと同じ輝きを纏う金の鎧
長年使い込んだ所為か、私の物は鈍く汚れている
だが磨こうとは思わない
共に歩んできた誇りのようなものだから

陛下から頂いた首飾りを付け、慣れ親しんだ結い紐で髪を束ねる
乳白色の翡翠が通された首飾り
私が持つ、唯一無二の宝物

紺の布地に金色の鎧
帯びる剣も、金細工
眉を吊り上げ私は応接間へと戻った



「お待たせ致しました。ご案内致します」

坊主頭の僧侶が恭しく礼をして先を歩く
背後でジャーファルが周囲を軽く見回している気配がした

「どうした」
「いえ…女性が見当たらないものですから」
「当然だろう。我が国では女は穢れだ。そう滅多に王宮には入れん」

その身に不浄を宿している女は、現世では上を望めない
輪廻転生を隔て男として生まれ変わるほかない

――それが、この国の定めた全て






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