「アンタ、いつまで経っても変わらないわね」
「それが良いとこだけど、ふふ、いやでも可愛いわよセレーナ」
「…嬉しくない」

豪華なドレスに首飾り
足元を彩る素敵な靴
髪だって巻いて花を添えて

友人達は着飾って宴に行った
私は家に引き篭もって溜息を吐く

「どうせ、小さいわよ…」

私の背丈は驚くほど小さくて
145cmあるか、ないかぐらい
八人将のピスティ様と大差ないけど私は彼女よりもっと年上
絶望的な数字と見た目に、友人達ですら話のネタにする

謝肉宴は嫌いよ
王も国も大好きだけど、あれだけは嫌い。大嫌い

皆綺麗に楽しんでいるし、素敵な人と巡りあっているけれど
私にかけられる言葉なんて「お嬢ちゃんお小遣い貰ったならコレどうだい?」ぐらいなんだから
顔は決して可愛くないから余計不釣合い

頑張って付き合っても、すぐ他の女性に行かれてしまう
体型がダメなのかな。でもそれならピスティ様だって同じなのに、全然違うし
溜息が止まらないし宴の音が響いて煩い

「セレーナ、セレーナ!」
「…なあにどうしたの」

ドンドンと扉を叩かれて出ると、宴に行ったはずの友人が居た
この子もとても綺麗に着飾っていて嫌になる
顔が赤いから酒でも飲んだのかな。私、飲もうとしたら怒られるのに

「うふふ、アンタに素敵な贈り物!」
「贈り物…?」
「選びなさい!どれが好みかしら?全員とデートしてみればいいわ」

ずらりと並んだ男の人達
ちょっと待ってよ。困惑してるじゃない
彼らは私じゃなくて、アンタをデートに誘ってるんだってば
酔っ払いはこれだから困る

「私はいいわ…代わりに行ってきて」
「やだもう可愛いこと言っちゃって。うふふ、小さくて可愛いー!」
「――っ、ほっといてよ、馬鹿!」

豊満な胸に押しつぶされそうになって思わず突き飛ばした
酔ってるからって、言っていいことと悪いことがある
好きで小さく育ったんじゃない
必死に頑張ってきたのに、何なの、本当は心中で笑っていたの

がむしゃらに宴の街中を駆け抜ける
どこまで行っても綺麗な街並みが憎らしくて仕方ない
涙を堪えて走っていたら、怒りも少しずつ減ってきた

…もういい大人だしね
それぐらいでずっと怒ってるほど子供じゃない
家に帰ろうと踵を返したら、泣いている子供を見つけた

「どうしたの?」
「う…まま、ぁ…っ」
「お母さんと逸れたんだ。探してあげる、おいで」

綺麗な花輪を頭に乗せた女の子
手を引いて騒がしい街中を歩き回る
背丈は…私と変わらない。でもそのせいかすぐ打ち解けてくれた

「髪は茶色でくるくるしてるんだ」
「うん…あとね、すっごく綺麗なんだ!」
「そう。目の色は?」
「青だよ、わたしとおんなじ」

にかっと笑うこの子は、きっと美人になるんだろう
胸が少し痛んだけど頭を振って道行く人々を見る
茶髪で巻髪で青い瞳なんて沢山いて、背の小さい私達が人を見つけるのは大変だった

「まま…」
「大丈夫、もうすぐ会えるよ。ええと…」

酔っていない人に聞こうと見渡しても、誰も彼も顔を赤くして陽気になってる
宴の深いところまでやってきても母親は見つからない
途方に暮れていると、空から声が降ってきた

「シリン!ああもうどこに行っていたの…!」
「ママ!」

綺麗な声は本当に高い所から落ちてきた
見上げると背の高い男性の肩に、この子の母親は乗っていた
降ろしてもらってしっかりと抱きしめている

「本当に有難うございます!何とお礼を申し上げたらいいか」
「ああ…良かったな」
「ええと、あなたも有難うね」

母親は男性にお礼を言ってから私を見て微笑んだ
…また子供に間違われてしまったけど、私は首を横に振って同じように微笑んだ
だって、あの子が本当に嬉しそうだったから良いや

「これ、あげるね!ばいばい!」
「気をつけてね。ばいばい」

あの子の頭にあった花輪を貰った
被ってしまうと余計子供に間違われちゃうだろうな
そうだ、母親を連れてきたこの人にあげよう

「あの…」
「…なんだ」

改めて見上げて吃驚する
誰だって自分の国の王に次いで偉い人が、こんな傍にいたら驚くに決まってる
話しかけたけど言葉が続かなくて口をぱくぱくさせてしまった

「い、いえ!良かったらこれどうぞ!」
「?お前が貰った物だろう…?」
「私には似合わないものですし。あの子だって私より八人将であるマスルール様に受け取ってもらったほうが、喜んでくれると思います」

時折、遠目で見ることはあってもこんな近くで見るのは初めてで
思っていたより端整な顔立ちに心臓がどきどきする
俯きながら花輪を差し出す私に、野次が飛んできた

「お嬢ちゃんマスルール様に惚れたのかー?」
「10年頑張れ、あと10年!」

かあっと、顔が赤くなるのがわかる
顔立ちにときめいたのは事実だけれど、10年経っても大きくなんてならないってば!
恥ずかしさと悔しさに下唇を噛み締める
震える手から花輪が取られた

「…充分、美人だ」

そっと私の髪に何かが刺さった
マスルール様の言葉に驚いて顔を上げると、花輪から1つ花が減っていた
そして、真っ直ぐに見つめる瞳と視線が合った

「心が…広いな」
「言われ慣れてること、ですから…ってマスルール様私の歳…っ」
「子供ではないだろ…?」

対等に扱ってもらえる日が来るなんて
嬉しさのあまり思わず涙を溢してしまった
王の傍にいらっしゃる方は、やっぱり凄いんだ
両手で顔を覆って泣く私の頭をマスルール様は撫でた

それは子供をあやすようなものではなく、優しく温かいものだった




Thumbelina
(花の王子に見初められた小さい女性のお話)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -