深夜2時、私は家を出た
終わらない課題に飽き飽きして近くのコンビ二へ向かう

栄養剤を買うか、買わないか
これを買ったら女子として終わる気が
いやしかし物凄く眠気が襲ってきてるしここはひとつ

と、1人自問自答を繰り返して
ようやく手を伸ばすとかつんと横から出てきた手に当たった
びっくりして手を引っ込めて相手を見る

「うゎ…っ、あ、どうぞ…」

うっかり"うわ"と言ってしまった
深夜に出歩いてる人間なんて、碌な者じゃないんだけど
どう染めたのか分からない赤髪なんて間違いなく不良だろう

一瞬しか見てないけどピアスが顔面にあったような
あと目元が物凄く怖かったような
そのくせ格好は黒のジャージだし

「あ…最後なんで」

棚から取った栄養剤を私の方に差し出してくる
確かにもう同じやつはないけど、此処で受け取ってナンパとかそれもな…
決して自意識過剰なわけではなくて、そういうことが過去にあったから警戒してるだけ
視線を泳がして受け取らない私に向こうは首を傾げた

「そんな欲しくないんで、いや、どうぞ」
「はあ…。…これ二日酔いに効きますか?」
「え。それは睡眠だからお酒ならこっちが」

さらっと聞いてくるから何気なく返してしまった
しまった何ちょっと仲良くなりそうな雰囲気醸し出してんだ
気を引き締めなおして警戒を続ける私をスルーして、その人は別の栄養剤を数本手に取った

そのままレジへ向かっていく
お、や。何か拍子抜け
決して期待してたわけではないんだけれども

「ってアレ?」

当初買おうと思ってた栄養剤が棚に無い
焦る私の頬に冷たい物が当たって、変な声と一緒に横に飛んだ

「…どうぞ」

清算済みであろう栄養剤が私に差し出される
お金を払おうと財布を取り出そうとして固まる
ちょ、家に置いてきた!ばっかじゃないの私!

「や〜…あの、財布忘れたんで、やっぱりいいです」
「そうっすか」

惜しいけど食い下がらないでもらえたことに安堵する
…何故屈む?何故私の格好を見る?
部屋着のズボンがそんなにお気にでも召し、

「きゃあっ!うえっ?ちょっと…!」

アンタはオリンピック選手か何かですか
私のズボンのポッケに栄養剤入れたかと思うと、目にも留まらぬ速さでコンビニから出て行ったよ
新手の嫌がらせ?あとで家に請求くるとかそういうの?

「どうしようコレ…」

店員さんにでも預けようかとレジを見る
ばちっと目が合った。合ったけど、お前も凄い髪色だな
肌は何?日サロでも行ってるの?よく面接受かりましたね

不躾に眺める私に店員さんがにこっと笑う
あ、ちょっと笑顔はいいな

「お客さんソレ返品します?」
「え…」
「俺さっきの奴の住所とか知ってますけど」

なんで?と顔を見れば「学校同じなんで」って言われた
学生なのか。あれで学生なのかあの人もアンタも

「代わりにメア「先輩プリンにストロー付けるのいい加減やめてくださ「てっめーワザとだろ今のタイミング!」

お互いの台詞に被せあって忙しい人達だな
まるで漫才みたいなやり取りをテレビ眺めるように見てたけど、我に返って栄養剤を差し出す

「マジお返しします!」
「いや別に俺要らないんで…」
「なら俺にくれよ。夜勤ねみぃ寝そう」
「知らないっす」

おおいまた漫才始まったんだけど
突っ込む気も起きなくて呆けていると、突然手の中の栄養剤が消えた

取られたと思いきやキャップが開封される
赤髪の人がそれを手ににじり寄って、私に目掛け…!?

「お前無理矢理飲ますなよ」
「これで返品無理っすね」
「げっほ、うぇっ」

何か別の意味で目覚めたわ…!
掴みかかろうとしたら自動ドアが開いて音楽が鳴る

「あ、いらっしゃいま「マスルール!あれほど深夜に出歩くなと言ったでしょう!」
「…ジャーファルさん…」
「それもまたこんな栄養剤を買い込ん…何故二日酔いなんですか、まさかあの人また、」

お母さんみたいな人来た
そして凄い勢いで赤髪…マスルールって言うんだ、ともかく彼は目を逸らした
隠し事してるってバレバレじゃないかその行動

「帰りますよ貴方の部屋に、今すぐ」

柔和そうな顔立ちが一瞬でなまはげみたいな顔になった
はっと気付いた時にはもう外に出て連行されていってる
慌てて追いかけてジャージを掴んだ

「あ、明日お金払いにきます、からっ」

全力疾走したから息を切らす私に、彼は僅かに口角を上げた
微かな街灯がそれを照らして怖いというより綺麗と感じる

「…おやすみなさい」

また歩き出したその背中を、私は暫く見詰め続けた
夢なんじゃないかと考えたかったけど、自宅では終わっていない課題が私を迎えてくれたから、ああ夢じゃないんだと嬉しくも残念に思った










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