(※3年後長編主人公)



どこかで眠っているだろう彼を探すために森へ向かう
今日ほどこの行動を恨んだことはない

水辺に咲き誇る花々を見たあの日のことを



「気持ち悪い花が咲いていた?」
「はい」

ヤムライハは首を傾げた
生物は専門外と言っていたけど、博識な彼女なら何か知っているかもしれない
そう思って尋ねたんだが

「俯くように咲く花と青く水辺に誘うような花です」

出来る限り細かく伝えてみてもやっぱり分からない
彼女と一緒に見に行けばいいかもしれない
が、もう一度あの花達を見るのは嫌だ

「また調べておくわ」
「お願いします」
「魔法材料になるかもしれないし、うふふ」

突然笑顔になる彼女に引きつつも、らしくて安心する
あまり見かけない花だったから気に掛かっただけ

大丈夫、杞憂だから

日も高いうちから木陰でまどろむ
少し安心すると眠気が襲ってきた
抗う気は起きず、成すがままに落ちていく



「――、セレーナ、…」
「…はぃ」

肩を揺さぶられて目覚める
マスルールが少し焦った顔で傍に居た
身じろぐと、自分が汗ばんでいるのが分かる

じっとりとした不快感
いくらシンドリアが暑いとはいえ、木陰でこんなことになるなんて

「大丈夫か」
「え?」
「うなされていた」

彼はそう言うけど覚えが無い
おかしいな。いつもは夢をわりと覚えているのに
だけど身体に残る感覚と妙な胸騒ぎだけが纏わり付く

「ちょっと、暑くて」

木陰にいるのにこの言い訳は苦しかったかな
でも彼は言及せずに頭を撫でてくれた
そして見せたいものがあると、僕を抱えて森へ連れて行く

「これ…」
「っ、」

それはあの花達だった
僕を下ろして、彼は群生へと足を踏み入れる

一歩、また一歩

青い花のせいでどこまでが水辺か分からない
俯く花のせいで下を向きがちになってしまう

マスルールが屈んで花を手折ろうとした

「やっ、待って!」

彼の腕を引いた
そのまま地面に倒れこみ、縋るようにくっ付く
寝転んだ状態でマスルールが僕を引き寄せた

「どうした?」

僕は口を噤む
思い出したんだ、夢の内容を
今と同じようにマスルールが花を取ろうとして、そのまま消えてしまう夢を

怖くて怖くて、夢の中の僕は必死に探し回るけど
どこにも彼は居ないし最後には僕自身も、水面に映る自分に引き込まれて苦しんだ

現実にそうなるとは言い難いけど、でも駄目だ
ぎゅうっと抱きつく僕の背を彼が撫でる

僕を置いていかないでほしい
でもその言葉は言えない
王のために動けば、いつかはきっと居なくなるんだから
そして平等にやってくる死には誰も抗えない

「…今度の同行お気をつけて」

ごくん、と寂しさや怖さは飲み込んだ
いつまで経ってもこれには慣れない
そんな僕を、マスルールは起き上がって膝の上に乗せた

2人して花の香りがついている
マスルールは近くにあった2種の花を、1輪ずつ僕の髪に挿した

「お前のもとに必ず帰ってくる。だから、」

泣くな。という優しい声に、僕は小さく涙した





Narcissus
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