高嶺の花だと持て囃されて
それ、全然嬉しくない

好きなだけ貢げばいい
似合うと、いやそれすら及ばないと言えばいい

私の大嫌いなバラを捧ぐお前達だなんて



「お美しい貴女の足元には遠く及びませんが」
「いえ、それよりも此方の方がきっとよくお似合いです」

傅き噎せ返るほどのバラを差し出す男達
微笑む私のなんて優しいことだろう

本当なら今すぐにでもこの花弁を毟り倒して投げ捨ててやりたい

「素敵。ありがとう」

たかが数個の音の振動で彼らは舞い上がるほどに喜ぶ
滑稽極まりない。こいつらも、私も

「少し失礼するわ」

席を外してバルコニーに出る
そこからはバラの庭園が見えて、私は眉を寄せた

つまらない晩餐会
身も言葉も着飾って慣れない笑顔を振りまく
戻るのも面倒になって、その場で蹲り月夜を眺めた

歯の浮くような台詞しか言えないアイツらの中から
私は結婚しなきゃいけないのかと思うと嫌になる

きっと毎日バラを買ってきて
お前の美しさは花すら霞んでしまうとか言うんだ

「バラなんて嫌いよ…」

真っ赤なバラなんて特に
そうね、花に限らず赤色は好きじゃない
母さんの胸を染めたあの紅なんて

ガタン、と音がして振り返る
近辺では見かけない衣服を着た赤い髪の男
最悪。と心の中で悪態を吐きながら微笑んだ

「夜風に当たりに?」
「…まあ」

顔を顰められ距離を置かれた
そんな態度を取る男を見るのは久しぶりで
驚きと困惑が胸中に渦巻く

彼は私に積極的に話しかけるわけでもなく、本当にただ涼みにきただけなのか月を眺めていた
此方に好意を寄せない男への接し方なんて分からない
だから私も立ち上がってただ月を眺めた

頬を撫でる風が心地良いと思ったのはいつ以来だろう

何気なく隣を見ると、月光が彼を照らしていた
憎い赤の髪を、同じ色をした瞳を、煌々とまるで獣のように

「…あの、」
「セレーナさん此方にいらしたのですか」

話しかけたかったけど、どこぞのお坊ちゃまが邪魔をした
溜息を吐くより早く笑顔を作る
ぶわっとバラの匂いが広がった

本日1番大きいバラの花束
それもご丁寧に帯紅の

「貴女のために特注で」
「――ええ、ありがとう」
「よくお似合いです。やはり貴女はバラが似合う人だ」

苛々が募っていく
ねえ、仮にも好いている相手なら、少しは調べたりしない?

私のお母様は白いバラを買った帰りに事故で死んだ
真っ白いバラを、真っ赤に染め上げて

バラは嫌い
見れば見るほどに思いだすから
私があの時我侭を言わなければお母様は死ななかった

青いバラが見たいとねだらなければ

優しいお母様はきっと私の為に
白いバラを青く染めて見せてあげようと思ったんだ
その私に赤いバラを捧げるなんて、似合うだなんて


「それ、似合ってないっスよ」


その一声に私は我に返った
大きなバラの花束を抱えた私を、彼が見ている
呆れたような、つまらないものを見る目で

「失礼だぞ君!セレーナさんは赤がとてもよく似合うだろう!」
「赤が似合うのは否定しませんけど……」

彼は途中で言葉を止めて室内に戻って行った
帰ってきた時、抱えていた花束を男に向かって放り投げ、代わりに1つ花を差し出した

青い小さな花が数個ついた、ローズマリーを

「俺はバラの匂いより、こっちの方が好きですけど」

すっと通るような香りがする
それを嗅いだ瞬間、涙が溢れてきた
私の思い出の中のお母様の香りと同じだったから

「ありがとう…」

涙を流しながら笑った
きっと綺麗じゃないその笑顔を見て、彼は小さく頷いた

たとえ世界中の男が似合うと言っても
貴方がこっちの方が良いと言うならば
私は密やかに咲き誇ろう





Rosa
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