ある日見つけた四葉の不思議な草
1枚1枚がまるでハートのようで、私はそれをそっと持ち帰った
そして何気なくそれを右の靴の中に入れた

すべては、それがはじまり




「やばい、遅刻する」

目覚めたら日が燦々と降り注いでる
以前は昼夜関係無しに必死に働いてたんだけど、移住した今は昼だけ働いてる
おかげで寝坊することが増えた。安全に寝れるからね

「おはようございます!」
「5分遅刻だよ、セレーナ」
「すみません!」

調理場に入ると料理長が笑って言ってくれた
私の遅刻は今に始まったことじゃない
とはいえ、何時まで笑い飛ばしてくれるものか

遅れた分必死に働く
市場にある小さな料理屋
地元の人から観光客まで、ありとあらゆる人が集う

かくいう私も元は難民で
どうにかシンドリアに来て、この店の前でお腹を空かせてたら拾ってもらった
手続きをしてもらって家も貰って、本当に感謝してる

「あー…、セレーナ!悪いけど卵買ってきてくれ!」
「はーい!」

お昼のピークを迎えるちょっと前
私はおつかいに出された店の靴から自分の靴に履き替えようとして気付く

「うわ、これ入れてたやつじゃん…」

靴は何足か持ってるんだけど、そのうち一番古いのに入れてた
にも関わらず今日は慌てすぎてそれを履いてきてしまった
踵とか磨り減ってて恥ずかしいんだけどな

しかしうだうだしている暇は無い
どうせ誰も見てないし、と諦めて買い物へ繰り出す



「卵、卵…そういえばアレも無かったような」

市場から少し外れた場所にある商店街みたいな所で買出しをする
卵を籠いっぱいに買って、それと野菜や果物もいくつか足しておく

「よっし!…じゃない!!」

たっぷり持っていざ帰ろうと一歩踏み出したら果物が落ちた
屈んで取ったら次は起きれなくなる
でもこのまま放置していったら勿体無い

「ちょっと、誰か…っ」

近くの店の人に助けを求める
果物から顔を逸らした一瞬だった
視線を戻すと、果物が宙に浮いている

正確には誰かが持っている
瞳を上へと動かしていくと、背の高い男の人が居た
青の衣服が赤髪に映えて綺麗

「あ…どうも、ありがとうございます」

彼は果物を籠の上に乗せようとして…止めた
大きな掌で詰まれた野菜と果物を、ごっそり取る

「え!それ…!」
「どこまで運べばいいんスか」
「…あっ、いや、どうもご丁寧にありがとうございます」

大胆な泥棒かと思った
卵以外は運んでくれるそうなので、店まで付いてきてもらう

「本当にシンドリアっていい国だなぁ…」
「はぁ」

うっかり独り言を呟いてしまった
しかも律儀に反応された
恥ずかしいけれど着くまで無言なのも何だし、これを機に少し喋りだす

「私、今働いてる店に拾ってもらったんですよ」
「…そうなんですか」
「家とか服とか、前ならぼろぼろだったのに、ホント信じられないっていいますか」

話しているうちに何だか嬉しくなってきた
前居た場所は、今日死ぬか明日死ぬか、そんな所だったから
見知らぬ誰かと話すなんて自殺願望持ちしかしない世界

ふと隣を見ると、彼は無表情から少しだけ変わっていた
一方的に喋りすぎた。慌てて謝罪する

「すみません。今日こうして貴方に助けてもらって、なんか幸せ感じてしまって、つい」
「いえ…。…この国、好きですか」
「はい!」
「ずっと住みたいですか」
「できるなら。此処で私は笑って生きて、最期まで笑っていたいです」

死の間際まで笑っていられたらどれだけ幸せか
その時、願わくば傍に素敵な人がいればもっと良い

「あ、此処です」

そうこうしていると店に着いた
お客の入りが半端じゃないことになっていて、さっと顔を青くする
買い物に時間をかけている間にピークが来てた

「すっすみません!それこっちまで持ってきてもらえますか!?」
「はい」

厨房まで急いで運ぶと、料理長が困り果ててた
卵を差し出して頭を下げまくる
怒られると思いきや、料理長は悲鳴に近い声を上げた

「ま、マスルール様!一体何故…!」
「これ此処でいいんスか」
「お願いします。本当にすみま「セレーナ!!」

料理長に叫ばれて思わず身が縮こまる
そっちを見れば今まで見たことないぐらい必死な顔をしていた

「この御方はだな…!」
「忙しそうなんで、俺帰ります」
「あ。今日は本当にありがとうございます。良かったら今度食べに来てください。私が奢りますから」
「…じゃあ、また来ます」

出口まで見送りたかったけど忙しさのあまりそうも行かず
礼を述べて手を振り、彼は帰っていった
その後料理長に何かと言われたけれど、皿を運びながら聞いてたから頭に残っていない



それが、運ばれてきた運命





「いらっ…あ!こんにちは!」
「…どうも」

後日彼は宣言通り店へと来てくれた
お昼の忙しい時間帯は外して、少しゆっくりしている午後に
あれから数日経ってたし忘れられたかと思った

「何にしますか?さっき市場で美味しそうな野菜仕入れたので其方がおススメですけど」
「じゃあこれと、これで」
「はい。オーダー通ります!」

料理長に伝票を差し出して微笑む
あの体格でアレだけとかお腹膨れるわけない
頼まれた物以外に追加して出した

伝票と私と、あと彼を見て料理長は溜息を吐いた
首を傾げて聞いても相手にしてくれない
せがんでいるうちに料理は出来ていく

大皿料理を次々と運べば彼は驚いた
最後の品を置いて、私は片目を軽く瞑る

「サービスですよ、サービス」
「運んだだけで…」
「優しさには3倍返しが基本です」

これぐらいしたって私が受けた恩の100分の1にも満たない
予想通り彼は何人前もの料理を1人で平らげた

料理長が何故か休憩をくれたから、隣に失礼して私も昼食をとる
まかないも食べるけど今日はお弁当
いや、これも店で余った野菜や肉をパンに挟んだ物だけどね

「………」
「あの、」

そんなに凝視されると食べ辛い
今度から食べてるお客さんまじまじと見るの止める
止めるから許して欲しい

「それ、1つくれませんか」
「足りないんでしたらオーダー追加で…」

メニューを差し出そうとすると首を横に振られた
頑なにコレを食べたいと言うので、1つ渡した
凝ったところなんてドレッシングぐらいなんだけど

「美味い」
「ありがとうございます」
「…」

2口ほどでそれは食べきられる
彼はそれ以上は欲しがることなく、やっぱり私を見る
視線を逸らしつつ食べているとふいに話しかけられた

「俺の職場にも来ませんか」
「えっ。でもご迷惑じゃ…」
「飯美味いです」
「行きます」

うっかり美味しいご飯につられてしまった
はしたなかったかな、と後悔したけど、彼は別に気にしてなさそうだ
その日はそれで仕事に戻って
後日私は渡された地図の通りに向かった


そして全力で時が戻ればいいと願った


「よく来たな!マスルールは今席を外しているから俺が代わりに相手になるぞー」
「いいえ貴方の相手は仕事です、シン」
「…き、」
「ん?」

王宮中に響き渡るほどの声で私は叫んだ
それはもう、衛兵が沢山やってくるぐらい大きな
一目散に逃げ出そうとした私を、誰かが担ぎ上げた

「いやああああ、離してっ、なんで王様が!何かの罠?罰ゲーム?――はっ!きっとあの人が地図を描き間違えて…!」
「間違えてません」
「ですよねこんな一本道…!?」

声に驚いて下を見ると、私を捕まえていたのは彼で
今まで会った時とは違う立派な鎧を着けていて
周囲の態度や王様への接し方とかに、さーっと顔が青褪めていく

「も、もしかし、てっ」
「…セレーナさん」

すとんと下ろされて名前を呼ばれる
私の名を告げた記憶が無くて、思わず口を開けて驚いた

「一生、シンドリアで暮らしませんか」



騙されたと何度思ったことだろう
同時に無知だった自分を何度憎んだだろう

それでも彼のことを知りたくて
これ以上何を隠されてるのか見てみたくて

私は頷くほか、無かったんだ





Fourleaf clover
()





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -