白い花、可憐な花
でもその匂いがきつすぎて誰も近寄らない
まるで私みたいな花

真夜中の帰り道にそれを見つけた時は、少しだけ嬉しく、そして悲しくなった

「黙っていたらいいんだって」
「お人形じゃあるめぇし」
「ほら、そういう言葉遣いとか」

友人は呆れながら指摘する
そんなこと言われたって直りゃしないんだから、仕方ない
癖のある言葉を使う地域に生まれたんだ
齢20にもなってそうそう変えられない

「見た目は超清楚美人なんだから、ちょっと我慢すればいいのよ、ちょっと」
「そげんことで寄ってくる男に碌な奴いるはずないっしょ」
「もう…だからってね」
「せからしか」

何ソレ、と友人は首を傾げる
五月蝿いという意味だけど教えはしない。余計五月蝿くなるだろうから

こうして考え事するぶんには普通の言葉なんだ
ただそれが、口という器官を通したらああなるだけで
…なんていうのは半分本当で、半分冗談

「こっちゃから帰るわ」
「はいはい、気をつけてね」
「捲くし立てりゃ逃げっちゃろ」

友人と別れて1人夜道を歩く
本当は、直そうと思えばこの口調だって直る
でも私は敢えてそれをしない

いつもにこにこと微笑んで佇むだけの女にはなりたくない
男に口答えして、飾り物じゃない私になりたい
今まで付き合ってきた男は皆そうだったから

「シンドリアに来てまで、なんしちょんかねー…」

ふと空を見上げて立ち止まった
満点の星空に、目が奪われる

「…綺麗」

素直に言葉が口から漏れた
きらりと星が瞬いた瞬間、流れ落ちる

瞬時に私は真剣に叫んだ

「世界が平和でありますように、世界が平和でありますように、世界が平和でありますように!」

どちらが早かったかは分からない
ぜぇぜぇと深呼吸をして、もう一度空を見ようと顔を上げる
前方に人影が見えてどきっとした

「あ…っ」

背に銀髪の男性…シャルルカン様を抱えたマスルール様
向こうは国営商館が立ち並ぶ位置だから、きっとそっちで飲んで酔っ払ったんだ
さっきのを聞かれていないかと心臓が高鳴る

「こ、こんばんは…」
「…どうも」

挨拶をすれば返事がきた
でも一向に立ち去ろうとしない
向こうが行かないなら、私が行くしかない

「お、おやすみなんしょ…!」

ばっと隣を横切ろうとした時、腕を取られて振り向かされた
食い入るように見つめられて顔が赤くなる

「あ、の…!」
「ああ…すまん」

手を離されたけど何となく動けない
じっと見下ろされてるのが分かる
意を決して見上げた

「あっれ〜?ちょーかわいいじゃねーかよーおいー」
「先輩煩いっす」

背中でぐでんぐでんになってたシャルルカン様が起きた
但し、まだ酔っ払いは進行している
私を見て絡み、マスルール様を見て絡み、酒癖が悪すぎる

「おれとデートしねー?デートっ、デートっ!」

女の子みたいにきゃっきゃっとはしゃいでる
勿論、マスルール様の背中の上で
迷惑そうな顔をマスルール様がした時だった

「あれセレーナじゃんか」
「…うわ」

名前を呼ばれたので振り向いたのが間違いだった
そこに居たのは所謂元彼
私の顔と身体が好きだと豪語して、超俺様だった奴

露骨に嫌な顔をしてやったのに近寄ってきた
そしてマスルール様を見て少しだけ驚く
すぐにそれは厭らしい顔に変わったけど

「マスルール様こんな女やめといた方がいいですよ〜。顔はまあ可愛いですけど中身が酷いんで」
「おまっさんよりマシ」
「お前今そんな口調してんの?なに不思議系?俺といた時は普通だったじゃんか」

頭痛が酷い
普通って何よ、普通って

アンタのいう普通は顔がそれなりで身体もまあまあ良い感じで、男の後ろを黙ってついてきて、文句を一切

言わずに但し男の要求には無条件で応える

そんな女でしょ
馬鹿じゃない。それが普通とか
押し付けるだけ押し付けて、出来なきゃ酷いって、ばっかじゃないの

「ってわけなんで、ほら行くぞ」
「はっ!?やっなん…!」

強引に私の腕を掴んで去ろうとする
触れられた瞬間ぞわっとした感触が全身に走って、私は叫んだ

泣き出しかけた私をより一層強い力が後ろに引き寄せる

シャルルカン様を片腕で背負ったまま
私を軽々と持ち上げたのは、マスルール様だった

「黙ってたけどよォ…」

口を開いたのは背負われているシャルルカン様
地面に足を付けて、仁王立ちされる

「気色悪いぜ?お前」

びしっと前に指を突き出し言い放った
格好良いな、と見惚れたのは一瞬のこと

「先輩そっち誰もいないんで。酔っ払いは寝といてください」
「あんだと〜お前の気持ち代弁、してやっらんじゃねーか」

あ、今呂律回ってなかった
マスルール様に無理矢理座らされ文句垂れてる
呆れ果てた顔をされた後、マスルール様は少し険しい顔で相手を見た

「普通って、何だ」
「えっ?」
「お前は普通なのか」

私を抱えたまま歩み寄っていく
アイツは逆に、少しずつ後退していく

ダン!と大きい音と共に強く大きく踏み込まれた
思わず私も驚いて、ぎゅっとその身体にくっ付いた
恐る恐る見た地面は抉られたようになっている

「うわあああっ!」

情けない声を出してアイツは逃げ出した
マスルール様はそれを見て踵を返し、シャルルカン様の傍に戻って私を下ろした
代わりにまたシャルルカン様を今度は担ぎ上げる

「おいおろせっれば、あ、やっぱコイツやめて、おれとデートしない?」

背中を向けられたからシャルルカン様と視線が合う
へらへらと可愛らしい笑顔を向ける彼に、私は小さく笑って首を横に振った

「好きな人ができたので、その方を誘えるよう頑張らないといけませんから」

此方を一切見ずに去り行く背中にそう告げた
お礼も何も言えてないのに
それでも私は嬉しくて、誰も居なくなった星空の下呟いた


「必ず、誘いますから」





Allium tuberosum
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