綺麗な衣装に身を纏い、鏡の中の私が微笑む
そしてすぐに歪む表情

「やっぱり無理!恥ずかしい!」
「我慢しなさいセレーナ!私も恥ずかしいのよ!」
「ヤムは胸あるからいいじゃない、見なさいこのまな板!笑いなさいあははははははは「しっかりしてぇ!」

がやがやと外では楽しそうな声が響く
今は謝肉宴真っ只中
王によって乾杯がされ、私もヤムも気分良く飲んで語っていたのだ
そこに酔った誰かさんが現れ権力を盾にやりたい放題してくれ、結果、踊り子衣装に着せ替えられた

「死にたい」
「生きるのよ」
「はぁー…」

溜息を吐いて2人で外に出る
即行でピスティがやってきて上から下までじろじろ眺めた
遠慮のない視線に私達の顔が引き攣る

「セレーナたんはOK!ヤムはこれが邪魔アアァァァァアアアア」
「いやあああああセレーナたすけ、やだあああああ」
「ごめんバイバイ!」

既に出来上がってるピスティがヤムの胸に嫉妬している間に
…私の胸じゃ嫉妬なんかしないのよ、ええ、そうよ知ってるわ
さよならヤム。私が自由を手に入れるために犠牲になってちょうだい
一目散に逃げて人ごみに紛れ込む
知り合いに見つかるのだけは避けたい

「お面とか付けておこうかな…」

おじさんからお面と花を貰って付ける
これで配り歩いていれば街中の娘と区別なんて付かない
案の定シャルが通りかかったけど、気付かず去っていった

「悔しいぐらいにスルーされた」

気付かれても困るんだけどね
個性豊かな八人将面々と違って、私は平々凡々な政務官補佐です
歳が近いってことで若い八人将とは仲良くさせてもらってるけど、将軍とかヒナホホ様なんてもう恐れ多くて近づけない
きっと今頃あの2人の周りは武官で賑わっているんだろう

「わーすごい!」

観光で来たっぽい子供がきょろきょろ辺りを見渡している
傍には父親らしき男性がいて、此方も目を輝かせていた
微笑ましくなって近寄り花輪を渡す

「くれるの?」
「どうぞ。お父さんにも」
「えっ、すみません…」

シンドリアに来て何か忘れられない想い出ができたら嬉しい
王が創った国。八人将が守り、国民が笑う国
平和を感じさせ幸せに浸れる此処が私はとても好き
気分が良くなって練り歩くと前方に赤い髪が見えた
マスルールにバレても問題はないけど、恥ずかしいことに変わりはないのでお面を付ける
堂々としていれば大丈夫でしょう

「…セレーナ?」
「ひゃっ!」

油断していたところに呼ばれ腕を掴まれた
変な声をあげてしまって慌てる
落ち着け。まだ疑問系だったから大丈夫誤魔化せる

「あああマスルール様どうなさいました?」

お面の下で必死に声を作って対応する
すごい冷や汗流れてる
隙間から見えたマスルールはじっと此方を見つめていた

「人違いか…すまん」
「い、いえー。ああマスルール様もどうぞ」

此処で花輪を渡しておかないと不審がられる
さっさと去るより良いだろうと思って差し出した
素直に彼は掛けやすいように屈んでくれる
そういう優しさが、私はちょっと好きだったりもする

「…こっちに来てくれ」

ぐいっと手首を取られ歩き出す
えっ、えっ、どこに連れて行かれるの
ていうかこれ所謂ナンパってやつじゃないの。マスルールもそんなことするんだ
…ふーん、なんて無関心装ってみる、フリ

入り組んだ街並みを歩き階段を登る
人が少ない場所で解放された
一望とまでは行かないものの、宴の様子が綺麗に見える
覗き込む私に覆い被さるようにマスルールが両端に手をついた

「あっあの、」

不覚にもときめいてしまう
見上げた私の肩口に彼は顔を寄せた
いつお面が外されてバレるんじゃないかってどきどきする
同時に少しだけ哀しくもなった

私じゃない誰かにもこうするのだろうか
それを止める権利を、私はまだ持ち合わせていない
今此処でバレてしまったら終わる関係に素直に喜べない

お面の向こう側にいる架空の私が恨めしい
作り上げた甲高い声が耳障りだった

「あっ」

宴の終わりを告げる花火が打ちあがる
ぱーん!と煌びやかな色が夜空に咲く
普段見ている位置よりもとても綺麗で大きかった

「綺麗か」
「は、はい」
「こういうのは…好きか?」

きらきらきら
火の粉が舞って赤い髪を瞳を妖しく燃やす
これが私に向けられていたなら

「…ええ、私はとても、」

好きですと告げようとした瞬間視界が一気に明るくなる
それも一瞬のことで、眩しいまでの光が襲った後また暗くなった
息苦しい唇が離れてからお面が取られたことを知る

「あ…っ」

素肌が外気に触れて熱を冷ましていく
マスルールの顔が見れなくて視線を逸らした
ごめんね、あなたが思い描いた女の子じゃなくて
逃げ出そうと捩らせた腰に手が添えられた

「セレーナが好きなら良かった…」
「え、あ、わかって」
「匂いでわかる」

首筋に顔を埋められ、すん、と嗅がれる
そうだったと思い返して冷めた熱が一気に舞い戻る
ば、バカじゃない私!わかっているマスルールを前にして変な小芝居をして
開かれた鎖骨部分に唇が寄せられた

「っぁ、えっ」
「ん…」
「やっ痕ついちゃ、だ、めっ」
「…着るから悪い」

そんな別に着たくて着たわけじゃないのに
隠せないぐらいに沢山残されて、鎖骨も頬も赤くなる
それを隠すためぎゅっと自分から抱きついた
私があげた花輪が胸元に触れる

「次からは、此処で見たい」
「…デートのお誘い?」

そうかもな、と呟く彼の顔を花火が照らす
傍らでマスルールが見れるこの場所から、心中でひっそり王に感謝した











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