「私ヒナホホさん大嫌い!」
「うぉっ!?」

ダン!と盃を机に置く
白羽の矢を立てられたとか思ってるんでしょうね、ええ、思ってなさいよ
いーっと歯を剥きだして威嚇する

「俺は結構セレーナ のこと子供みたいで好んで構ってるんだがな…」
「知ってますよー!でもそれって私が大きいからでしょ?」
「一理あるな」

隣に居た将軍が同意してくれた
そうでしょう、そうでしょう
何せ私の身長は180を越えているんだ
正直その辺になってから測るのを止めた。やってられっか

「でかい人嫌い…いや、ちっちゃいのも嫌い…」
「ふむ、私も入るな」
「将軍は大好きでーす!奥さんも好き好きー!次いつ奥さんにお会いできますか!?」
「セレーナ お前…八つ当たりか」
「違います!」

キッ!とヒナホホさんを睨む
傍にあった酒瓶掴んでどばどば注ぐ

「あの馬鹿が小さいのが悪いんですよ!なにあれちいさー!私と目線殆ど変わらないし意味分からないですよねー!」
「そうか?イムチャックでもねぇのにあの大きさは凄いと思うぞ?」
「へーん!私だって違いますからね」

もう盃に注ぐの面倒になって直接飲む
別に私はイムチャックでも、その血筋引き継いでるとかでもない
両親は小さかったのに隔世遺伝起きてでかくなったんです
高い所の物取れるのはいいけど、女としてはあまり要らない機能

「男なんて皆小さいのが好きなのよ…」
「そうへこむな。お主は良い女だぞ」
「将軍!結婚してなかったら結婚してほしい!いやいっそ養女にしてくださーい!」
「…おいドラコーン本気で考えるなよ。明らか酔ってるだろ」

あああ、将軍本当に良い人だ。奥さんも素敵だし子供になりたい
それに引き換えなんだよこのイムチャック
将軍に抱き付いてると、同じような髪色の子供が現れた

「あーセレーナ また酔ってんのかよー」
「うわ来た!」
「ねえセレーナ さん、父ちゃんと結婚したら?ぎりぎり規格内!」
「遠慮するわ。私こんな一気に子供持ちたくないっていうか同僚が娘とか嫌」

子供達が迎えにきちゃったから飲み会はお開き
本当は帰りたくないけど、将軍ずっと引き止めてるのも悪いし千鳥足で王宮に帰る
門番に挨拶したら見上げられた。死にたい

「うわぁ」
「…」

夜間の警備か知らないけどばったりマスルールに会った
私があからさまな声を出すと、向こうも眉を顰める

「酒臭いんで近寄らないでくれますか」
「言われなくても近寄らないわ!アンタの小ささが浮き彫りになって可哀想だし」
「…俺の方が数cmでかかったと思いま「聞こえなーい」

こちとら今年度の健康診断やってないのよ
どうせまた伸びてるだろうし、見たくない

…何が哀しくて好きな人と同じ身長にならなきゃいけないんだろう

「小さすぎんのよ馬鹿」
「はあ…」

この大きさで誰が女扱いしてくれるっていうの
可愛い服は全部サイズが無い
靴だって無くてあるのは基本男物

髪飾りも可愛いのは似合わないから付けなくなった
香も甘いのは体格に合わない
今まで惚れた男が好きなのは、小さい可愛い子ばかり
私はいつだって気兼ねなく話せる友人止まり

「帰る…」

マスルールだって、小さい子がきっと好き
最近やってきたモルジアナちゃんって子を溺愛してるし
ヤムライハさんとかピスティちゃんとかはちゃんと女扱いしてるもの
かたや私は初対面からこんな感じ
一時期はシャルルカンと一緒に私をからかってきたりもした

「何でついてくるのよ」
「警備の方向っス」
「…あっそ」

心配とか微塵もしてない
されるとも思っていないけれど、ね
結局人の部屋がある塔までついてきた
なんか中に入って同じ階までやって来る

「馬鹿か此処女性室の階だってば」
「………、ああ」
「ごめんそこから飛び降りて」

女性って聞いてからの間が腹立つ。私の性別を忘れるな
皆結構自由に出入りしてるけど、一応此処は女性と限られた警備兵しか来ちゃいけない階になってるんだよ

「じゃあねー夜勤がんばれー私は寝ますー」
「そうっすか」

いらっときたのでお休みとは言わず扉を閉めた
勢い良く閉めちゃったから同室の子が起きたかと焦ったけど、よく見たらベッドがぺったんこだ
彼氏のトコにでも行ったのかな。虚しい

翌朝二日酔いに苛まれつつ職場に行く
げっそりしてる所にどかどかと仕事が舞い込んできた

「あー…何これ。警備報告書紛れ込んでるし…」

ジャーファル様に返そうと思いつつ目を通す
この汚い字はマスルールだな
月日、時刻、勤務衛兵人数、担当区域…あれ

「あそこ入ってないじゃない」

塔周辺は別の人が担当になってる
間違い修正でもされろと思いながら、報告書をジャーファル様に渡した

「おや、すみません」
「ジャーファル様それ間違ってますよ」
「?どこがですか?」
「昨夜マスルール此処も警備してましたから。ついてきましたもの」

報告書にある地図を指差す
お茶を啜りながらそれを見ていたジャーファル様が、指差した途端茶を噴き出した
咄嗟に前にあった書類の束を持ち上げる

「な、ナイス判断ですセレーナ …」
「どうしたんですか…なんて恐ろしいことを…」
「いえ、…ふふっ、では申し訳ありませんがコレをマスルールに返してください。間違いなら訂正させないといけませんから」
「えええ!」

私がですか!なんて反論上司にできるはずもなく
同僚にドンマイと慰められながらマスルールを探す
どうせ中庭だろう。それか屋根上

「いたいた。はいコレ」

珍しく1人剣の鍛錬をしてた
報告書を差し出すと首を傾げる

「ジャーファル様が訂正しろって」
「…どこを?」
「警備担当場所違うってさ。馬鹿だねアンタも」

マスルールが押し黙る
普段から喋るわけじゃないからいいけど、まあ報告書早く受け取れよ
無理矢理押し付けたら即行で返された

「だから訂正しなって!」
「間違ってないっス」
「嘘吐くな。昨日塔までついてきたのは一体何の、」

予備動作無しに唇が塞がれた
10秒経たずに離れて、凄く近くに顔がある

「こういうこと…しようと、思ってたんですけど」

瞬き一つしない顔が悪びれもせずに存在する
気付けば報告書を握り締めて、その拳を振りかざしていた

「危ない…」
「信じ、られない!痴漢!ストーカー!変態!」
「それから守る警備についてたんすけど」
「お前が犯人だろ!自首しなさい馬鹿!」
「…はあ、じゃあ」

寸前で掴まれた拳を強く引っ張られる
驚くほど簡単に肩に担ぎ上げられた
暴れる私を力付くで押し込めてくる。ちょ、痛い。加減考えろファナリス!

「からかってるなら放してっ」
「違うんで放しません」
「でかい女に優しくするな!勘違いするでしょ…!」
自分で言って恥ずかしくなる
嫌なタイミングで頭が僅かに動き、マスルールの瞳が私を映した
真っ赤になった私が真っ赤な瞳に映ってる

「…チビが生意気なのよ…」
「そのうちまた抜かしますよ、どうせ」

本当に生意気な発言するな
睨んでやろうとしたら芝生に寝転がされる
青空が一瞬だけ見えて、すぐ覆い被さってきた

「…自分が女だって自覚して下さい」

ぐっと肩を押されただけで身動きが出来ない
私とマスルール、同じように成長してきたはずなのに
見開いた目が向こうの閉じた瞼を捉える
黒い、コール粉を塗ったような不思議な目許

あ。っと思ったときにはもう、2度目のキスをされていた
唇を割って舌が入ってくる
伺うようにやってきたそれは抵抗しない私を感じて口内を荒していく
時折洩れる自分の声が甘ったるくて、耳を塞ぎたくなった

「――…やっぱ、いいです」
「へ、ぇっ…?」

マスルールが退いて腕を引っ張られた
無理矢理起き上がらされると、ぎゅうっと顔を隠すように抱き締められる
心臓がどきどき五月蝿い

「可愛くなくていいっす…」
「!な、うるさいこの無愛想!」
「アンタも無愛想でいてください」

目尻に溜まった涙をちゅっと吸われた
その顔は無愛想なんてものとは、縁遠い、

「チビ、バカ、……スキ」
「…本当に、」

ああ、どうして私は可愛くないんだろう
















おまけ

「あの、さ…今夜あいてる?」
「はあ…一応」
「じゃあ一緒に…ってどこ触ってんだ変態!」
「?こういうことじゃないんですか?」
「違う!ただ飲みにっ、ああ、やっ胸触るなバカぁ!!」

アンタ本当は私の胸にしか興味ないんじゃないの!畜生!





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