好きだ、と気付いたのはわりと最近の話
見た目は普通より少し綺麗、だと思う
俺には外見の優劣の付け方が分からない

中身はさっぱりしている
女らしいところもあると言えばあるが、周囲が男だらけな仕事場のせいか、物事の決め方が男らしい
下手な男より人気があると誰かが言ってた気がする

「1人?隣いいよね」
「…はあ」

昼食を外で食べているとやって来た
週に2,3日ほど、仕事に余裕があればこうして俺の隣で食べている
今日はライ麦パンかと横目で見ながら自分のパンを貪る

「あのさぁ」
「何スか」
「相談、いいかな」

少し驚いて動きを止める
俺を見て彼女は笑って「他にいないんだよ」と言う
大したアドバイスはできないと念押しして話を聞いた

「好きな人がいるんだけどね」

聞かなきゃ良かったとすぐに後悔する
だが聞くと言った手前逃げ出すこともできず、適当に返事をして続きを促した

「その好きな人に好きな人がいてさ」
「へえ…」
「敵わないんだよね。絶対に」

珍しく弱音を吐いた
どれだけ仕事が忙しくても辛くても、決して泣き言は言わなかったのに

俺に言ってくれている嬉しさと
それを言わせている奴に対する嫉妬が混ざり合う

「アンタ美人じゃないっすか」
「そういうのじゃないんだよ。その人にとって好きな人はとっても大切な人で、何においても優先すべき人なんだ」

ぽつり、ぽつりと俯きがちに彼女が話す
見るからに元気が無い

「杞憂かもしれませんよ…」
「見てたら分かるよ。好きな人だから、ずっと見てきたんだもん」

自分はそのために今日まで頑張ってきたんだと呟いた
こっちを見てもらえるように、笑いかけてもらえるように
でもどれだけ頑張ってもその人は本当に自分を見てはいないのだと

「仕方がないこと、なんだけど」
「諦めるんですか」
「…そうできたらいいね」

力無く笑う。その横顔が痛々しい
それは彼女を俺自身と重ね合わせている所為かもしれない

恋だと気付いて以降、他の人よりは優しく扱ってきたつもりだ
彼女の言葉一字一句漏らさず聞くし、反応だってする
呼ばれたら少しばかり無理してでも傍に行くだろう

精一杯、頑張っているのに
俺の気持ちは彼女には届かない

彼女の気持ちは見知らぬ奴に向けられて
所詮俺は、体のいい弟みたいな関係

こうやって相談を聞いたところで意味が無い
いっそ、力ずくでと考えても、どうせ行動には起こせない

でも諦めろと言われて諦めれるほど簡単でもない

「好きな人を見ている目が優しいんだ。私を見るより格段に、だからかなぁ」

地面の一部が色濃くなる
泣いている。俺が傍に居るのに震えて、1人で

「あの人の1番になりたいだなんて、我侭、思っちゃいけなかったのに」

蹲ろうと膝にまわした腕を掴んだ
泣き顔のまま彼女が俺を見上げる

「――俺じゃ、駄目なんですか」

向こうの瞳が揺れて、…そして静かに首が横に振られた
掴んでいた腕がそっと外されていく

「駄目だよ君じゃ」
「っ、なんで、」
「だって君は王様が1番大切でしょう?」

涙を流したまま笑った
俺の掌を取ってそれを両手で包み込む

「この手は王様を守るためにあって、私じゃない。どれだけ私が頑張っても、君は王様を選んで守り抜く。どんなにどんなに頑張っても……君の1番に私はなれないんだ」

すべてが繋がって、また後悔する
言わなければ良かったと

彼女は俺のことを考えて考えて、そして話した
なのに自分のことしか見えず、彼女をよりいっそう傷つけた

「ごめんね、こんな話」

掌からゆっくりと熱が離れてく
半分も食べていないライ麦パンを丁寧に包みだす

「いやだ」
「えっ?」

物分りのいい大人なんかになれない
確かに俺はシンさんが大切で、命を賭してでも守りたいと思っているけれど
あの人はそれを望まないだろうしお前が死ぬぐらいなら俺が死ぬだなんて、笑えない冗談を言うだろう

シンさんに向ける1番と、彼女に向ける1番は違う

俺だけに全部が欲しい
彼女の想像の中の自分にすら嫉妬するぐらい、全部、全部、誰にだって渡したくない

「もっと強くなるから、だから……俺じゃ駄目ですか」

我侭なのはきっと俺の方だ
こうやって彼女が泣いたのをいいことに、勝手にキスまでするんだから
だからもっと、もっと、我侭を俺だけに言ってくれたらいいのに
















『俺大きくなったらシンさん守ります』
『ははっ、楽しみにしてるぞ。ああでもな、』
『?』
『俺よりも守りたいって思う女性が居たら、それを大切にしなさい。お前の力は守るためにあるんだからな』






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -