晴れ晴れとした青空
外に出て、んーっと伸びをする
今日が非番で本当に良かったと思いつつ、洗濯物という現実に目を向ける時がきた

「我ながらナイス溜め込み具合」

積むというより築き上げるって言った方が正しい
そのぐらい衣類は大量に置かれている
ずっと修羅場だったもんなぁ……何徹したっけ?思い出したくもないわ

ともかく1つ手に取る
白い物と色物と、あと下着と分けていかないと
せっせと籠に入れていくと見覚えのない衣類が出てきた

広げれば真っ白なタンクトップ
自分に宛がってみるけど、どう見ても大きい

「…サイズ間違えて買ったかな?」

まあいいや、と白物籠に放り込む
分別できたら水を張った桶の中に無造作に突っ込んで、石鹸でがしゃがしゃ洗っていく
こういう時お嫁さんが欲しいって切に思う

パン!と水気を切って広げる
綺麗になったそれらを竿に干していく

「と、届かないっ。なんでこんな上の方に…!」

いつの間にか高い位置に移動された竿に手を伸ばす
ぴょんっと跳ねる。…届かない
助走をつけて飛んだ瞬間、私の足は地面に着くことなく浮いたままになった

「きゃあ!っ、マスルール!」
「……はよ、ございます…?」
「このお寝坊さんが」

寝惚け眼な彼の額を軽く小突く
下ろして、とアピールすると地面にゆっくり下ろされた
代わりに手にあった衣類は上にいく

「あ、ありがとう」

彼の背丈だと丁度いいらしい
いつもは大雑把なマスルールにしては丁寧に干していく

「…俺のも洗ったんスか」

白いタンクトップを見て呟く
ああそれ、マスルールのだったのか
よくよく考えてみたら分かることだったのに、私もまだ修羅場脳が抜けきっていないらしい

「ついでにね」

ついで、で思い出した
ベッドのシーツも洗ってしまおう
お願いするとすぐに剥いで持ってきてくれた
桶の水を換えて鼻歌交じりに洗濯する
傍では残りの衣類をマスルールが干していってる

「よしよし完璧。これもお願い」
「はあ……あ、これどこに干しますか」
「え?適当でい―――くないっ!!」

彼が手に持っていた物を勢いよく取り返す
と思ったら高く上げられて空振った

「やめてやめて!お願い返してってば!」
「干さないと乾きませんけど」
「自分でやるっ。やだもう恥ずかしいから返して!」

その手にあるのは私の下着
平然とした顔で持たれても困る
ぽかぽか胸板を殴ってみるけど表情は変わらないまま、本当に適当な場所に干された
急いで下着の入った籠を抱える

「干せません」
「ばか!最低!デリカシーがない!」
「…昨日も見たから別に「恥じらいを持てばか!」

空の籠を投げつける
避けなかったのは悪いと思っているからなのか
言い争いながらも全部干していく

「はー…ここまでくると圧巻だね」
「そっすね」

空を覆い尽くす勢いの衣類
色とりどりのそれが風にはためいて気持ち良さそう

「これ入れる場所ありましたっけ…?」
「う。…まあ普段は畳むだけ畳んで置きっ放しだし、大丈夫でしょ」

手狭な私の部屋に置き場なんてない
あったとしても衣服ではなく書簡とかが置かれてる

「引っ越しとかしたらどうですか」
「うーん…王宮から近いし、庭付きな割には安いし、近くに店多いからなぁ…」

これだけの良物件、今のシンドリアではなかなかない
ただでさえ難民受け入れで住居問題起きてるんだ
あ、考えてたら頭痛くなってきた。あの件まだちゃんと解決してなかった

「…眉間に皺、寄ってますけど」
「きゃっ」

突然額を触られて驚く
思ったより手が冷たくて、数歩後ずさってしまった

「冷たいのー」
「水触ってましたから」

掌を取ってまじまじと見る
多分私の手も冷たいんだろうな
けど、2人合わせてたらやっぱり温かい

「非番なマスルールにお願いがあるんだけれども」
「さっきからお願いばっかっすね」
「イヤ?」

手を繋いだまま見上げれば、「別に…」と返ってくる
その顔は本当に嫌がってない
なんだかんだで私には甘い彼が可愛い

「昼食の材料が無いから買い物付き合ってほしいな」
「手料理作ってくれるんですか」
「私の不味いご飯でよければ喜んで」

そうと決まればすぐさま市場に行く
マスルールが好きな物全部買って、今日1日で使い果たした石鹸とか香も購入して
狭い家に帰って私はご飯を作り出す
その間彼はずっと、狭い家中をうろうろしていた

「ご飯できたよー」

浴室の扉をガン見している彼に声をかける
大量に作ったはずの昼食は、あっという間に無くなった
そしてまたうろつきだすマスルールを横目に、私は適当に物を片付ける

晴天のおかげで洗濯物は昼過ぎには乾いていた
取り込んで畳んで、シーツは掛け直す
我慢できなくてぼふん!とベッドに飛び込んだ

「うわーいい匂い。あったかい…幸せ…」

枕カバーも干していたから、枕にも顔を埋める
ベッドが軋んだので顔を上げる
マスルールが結構無理矢理入ってきた

「狭い狭い。これ1人用だから」
「昨日は何とか…セレーナ上に乗って「本当に恥じらいを持て!」

枕を投げつける
今度は先に手で受け止められてしまった
誰に聞かれてるわけでもないけれど、恥ずかしいことは言われたくない

ごろん、と枕を抱えたまま彼が寝そべる
…昨日は暗くて気付かなかったけど、このベッド横にも縦にも狭そう
じっと見つめていると腕を引かれて抱き締められた

「ごめん、狭かったんだ…」
「…まあ」

否定しない素直さに称賛の言葉が出そうになった
でも事実、マスルールは足を折り曲げてる
こんなベッドじゃ寝ても寝たことにならない

「この家全体的に狭いっすね」
「だからごめんって」
「俺とセレーナ2人だけならまあ、まだ何とかなりますけど…」

ぎゅうっと抱き締める力が強くなった
マスルールからもいい匂いがする。シンドリアの森と太陽の匂い

「お金貯めて広くて良い所に引っ越すよ」

それでいいでしょう?と笑いかける
あれ、不服そうな顔
私の頬を緩く摘まんでむにむにして、そのまま額に口付けられた

「良い所知ってますけど来ますか」
「本当?あ、でもお金…」
「俺が持ちます」

抱き締められたまま起き上がられる
胡坐をかくマスルールの膝上に座らされた

「どこ?此処より良い?」
「セレーナノ仕事場から徒歩10分くらいで、広さもまあまあありますし、望めばある程度の物は揃います」
「家賃は?」

文官の懐具合は厳しいのですよ
それだけの高物件、お給料全部吹っ飛びそう
心配になって見つめる私の頬に、またキスされる
家賃のことは答えないまま瞼や鼻先や首筋に何度も何度も唇を寄せられた

「―――…これで1日分っすね」
「へっ?」

最後にちゅっと唇同士がくっ付いた
素っ頓狂な声をあげる私を見てマスルールが溜息を吐く
左手を取って今度は薬指にキスをする

「これで分からなかったら文官辞めた方がいいですよ」

そこに口付けたまま真っ直ぐ私を見て言う
赤い瞳は炎みたいで、見慣れたはずのそれにどきどきする
火照った顔を見られたくなくて俯く

「…家賃、高くない?」
「一括払いもありますけど」
「何、それ」

私の耳元で囁く
全身の血が沸騰しそうなぐらい真っ赤になった
「ばか!」と投げつけようと思った枕は遠くに置かれてる

してやったり、といった顔が腹立たしくて
私は不意をついてマスルールをベッドに押し倒した
ついでに深く口付けて、今度は私がしてやったりと笑う

「これで1週間分。でしょ?」

それでは8日間、宜しくお願いします
出来るならばその先もずっと

「ベッド買い直さないとダメっすね…」
「え?大きかったじゃない」
「2人はいけますけど、まあ…」

意味が分かって私が怒って
それより先に彼が口許塞いで絆されて

今日が非番で本当に良かった





Please smile at me for the rest of my life.
(これからの私の人生に、あなたの微笑みをください)




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