しゃらん、と舞う音が聞こえた
ただ食べて飲んで、たまに自棄酒に付き合わされるだけの祭が変わった

「セレーナって踊れるんスね」
「いやいやお前セレーナが何のための食客だと思ってたんだよ」

思ったことを口に出しただけなのに、この先輩は本当にウザい
無視を決め込んでいたら勝手に喋りだした

「あんな細くて白い体で戦えるわけないだろー?セレーナの民族は踊りの儀式があって、踊ることで神託を受け取るんだよ。まあ…あのヘソ出し衣装はどうかと思うけど」

ヘソどころか隠れてる部分を探すほうが難しいぐらい出てる
首元も手の甲も足の指以外の部分、全部出てるのは顔ぐらいしかない服をいつも着ていたから
今の辛うじて胸の一部と尻が半分隠れているだけの衣装には驚いた

日頃纏め上げている長い髪を全部下ろして
飾り気のなかった髪や顔に宝石やベールや模様を施して
思っていた以上に細い腕と足を伸ばして、腰をしならせて

綺麗とか汚いとか正直どうでもよいが、これは綺麗なんだと思える

「マスルール?」

大皿に乗せた飯を食べながら見ていたら、見ていた本人が目の前に現れた
ぼーっとしてたとはいえ気付かなかった
少し驚いたのがバレるのは嫌だったから何気なしに垂れてきた髪の毛に触れる

「あっ、ダメ触っちゃ」

指先が触れたか触れなかったか
セレーナは慌てたように髪を後ろへ流した
目を少し伏せて微笑む表情は知らない人みたいに見える

「踊ってからしばらくは神様がお帰りにならずに留まっていらっしゃるから。お酒飲んで堪能していただいてからなの」
「…意外と面倒っすね」
「そうかな…とりあえず飲んでくるよ」

宝石がぶつかり合う音を刻みながら誰にも触れないよう行ってしまった
やることがなくなってしまった俺に、先輩達が絡んできた

「マスルールぅ…私の何がいけないのおぉぉ…」

既に出来上がってるヤムライハさんは性質が悪い
こういう時は適当に相槌を打っておく
しばらく相手をしているとシンさんが呼んでいるとやってきた奴にその役を押し付けて、シンさんのもとへ向かった

「きたかマスルール!お前も乗せてくかー」
「はあ、結構です」

相変わらず女性をはべらかしている
用件はそれだけっぽかったから、何か食べようと辺りを見渡す
イムチャックが多いおかげで見渡しにくいが、セレーナの姿を見つけた

何て呼び止めるか考えていると、男に話しかけられている
話してる。首を横に振った。何か受け取った。笑った。頭を下げる
気になるので近付くとすぐに見つかった

「あ、シンドバッド王が探してたよ?」
「終わりました。それ…」
「これ?さっき貰ったんだけど綺麗すぎてちょっと…申し訳ないけどピスティにあげようかな」

今頭に飾られてるものより数段豪華な首飾り
よく見ると他にも花だの輝く布だの持っている
重そうだったので全部担いだ

「ありがとう」
「よく貰うんスか」
「うん…踊ると皆何かくれる。嬉しいけど複雑」

困ったように笑う
頬を触ろうとして手を伸ばしたけど、引っ込めた
それを見て俺の手を掴んできた

「神様はお帰りになったから、今はただのセレーナです」

踊ってるときの表情とは違って、よく知ってる彼女
何故か安心して頬に触れた
そしてすぐにその手を叩き落とされた。意外と痛い

「ほ、おは、ダメっ」
「神様帰ったんじゃ」
「ダメっ!頬を触っていいのは結婚相手だけ!」

俺の腕から布をひったくって体にぐるぐる巻きつける
蓑虫みたいな姿にいつもの格好を思い出す

「よく考えたら祭りも終わるし体も見ちゃダメだった」
「はあ。まだ終わってませんけど」
「肌を見せて良いのも儀式か、…その、ちゃんとした相手との夜だけ」

布を鼻まで持ち上げてぼそぼそと呟いた
女にそういうことを言わせるあたりがダメなんだよ
と先輩の声で脳内に流れた。ウザい

「そういえばマスルール儀式見てた?」
「一応」
「そう…恥ずかしいな、知らない人に見られるのは平気なんだけど」
「さっきの男は良くて俺はダメなんスか」

これでもそれなりに交友はあると思っていたから、思ったままに告げた
ぽかん、と口を開けてセレーナがこっちを見ている
と思いきや見る見るうちに顔が真っ赤になった
近くに火はあるが、それのせいではないことぐらい分かる

「な、ちがっ、そういう意味じゃないんだよね、分かってる分かってる。あのほらマスルールは普段私がどれだけ体隠してるか知ってるから、だから」
「いやそういう意味で言ったんですけど」

そわそわしながら弁解する姿が面白くて冗談を言ってみた
セレーナはいよいよ訳が分からないという顔をして、自分の頬に手を当てたり俺を見たり、大忙しだ

「あ、えっ冗談…」
「言える性格してないんで」

首を横に振る
それが決定打だったのか、耳まで真っ赤にして逃げ去られた
追いかけようと思えば追いつくが、先輩が話しかけてきたのでそれは諦めた

「あれセレーナは?話し声したんだけど」
「知りません」
「折角もっぺん踊ってくれって頼もうと思ったのになー。あーあ」

先輩の後ろで部下も残念そうにしている
見れなかったんだろうが、俺の知ったことではない
が、妙にでれでれした顔の奴がいることは気に入らない
持っていた物全てを先輩に押し付けて足早に立ち去る
文句が聞こえたから振り返って一言だけ返した

「セレーナはもう俺の前でしか脱がないらしいですよ」

静まり返った隙にダッシュでその場を後にした
嗅ぎ慣れた匂いを追って、今言った冗談を本当にしてもらえるよう、頼みに行こう









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