(※紡ぐ、繋ぐ、捉まえるの続きになります)



貴方と再会して喜んだのも束の間
私達親子は唖然とするほか無かった
彼に連れられて向かったのはシンドリア王国で、更にかの有名なシンドバッド王のお目にかかれるなんて

「美人だな。とても子持ちには見えん」
「手を出してはいけませんよ、シン」
「出さねぇよ…」

王様に苦言を申し出るジャーファル様
なんで名前を知ってるかというと、この子がシンドバッドの冒険書が好きだから
冒険書に記載されたままのお人とは思ってなかったけど、此処まで違うとも思ってなかった

そんな彼らを王を挟んで眺めているのが…マスルール、様
呼び捨てなんてとてもじゃないけど出来ない
どうして名前を聞いた時に気付かなかったの!

八人将のお1人だなんて、そんな

「挙式は何時にするんだ?」
「まあ、落ち着いたら」
「楽しみにしてますよ」

和やかな空気のまま話が進んでいく
あれよあれよという間に、私達は塔の一室に案内された
準備が整うまでは緑射塔と呼ばれる此処で生活するみたい

「母さん、ベッドふかふか」
「ええ…そうね…」

暢気にベッドに沈むあの子を見て不安が大きくなる
不思議そうに私を覗き込む顔を包み込むように抱き締めた

何事も無く平和に暮らせればいい
そんな願いは、すぐに砕け散った





「…マスルール、様。朝議に間に合いませんよ…?」
「ん…」

自室は別塔にあるにも関わらず、彼は私達の部屋でよく眠る
私を挟んで川の字で寝て
朝私が起きればそっと起こして見送る

けどこの日は目を覚ましても起き上がらず
ずっと私を見ていた
不意に顔を逸らすと無理矢理戻され、引き寄せられる

「セレーナ」
「はい」

頑なに視線を合わさない私に、彼が溜息を吐いた
シンドリアに来てからずっとこういう調子だから

ずきずき痛む心を隠して、私は早く出るよう伝えた
遠くなる彼の背を見つめていると涙が出そうになる

「母さん…?」
「起きたの?今食事を持ってくるね」

あの子を部屋から出すのは躊躇われた
長い廊下を歩きながら、少しずつ心を無にしていく
聞こえてくる声に耳を傾けたくない



人っていうのは噂が好き
王様やマスルール様がどれだけ言おうとも
私とあの子の立場は浮いて見える

そりゃそうだと思う
突然現れた女と子供が、国民の羨望の的である八人将の家族とか
虫が良すぎる話だと自分でも感じる

私はいい。どれだけ言われても耐えれる
彼に恋焦がれて何年も想い続けてきたのだから、このぐらいどうってことない
でもね、あの子を悪く言うのだけは許せない

だけど暴れたら駄目
彼の立場まで悪くしてしまう
必死に、必死に好奇の色に耐え抜くしかなかった

それは徐々に私と彼の関係性をも壊していく



「俺外で遊びたい。…です」

1週間経ってあの子が躊躇いがちに言ってきた
以前は朝から夕方まで外で遊びまわってた子だから、部屋に閉じ込められている今の生活は耐え難いものなんだろう

我侭だと思っているのか
やや遠慮して敬語で言ってくるのに胸が痛んだ
赤茶の髪を撫でて抱き締めた

「ごめんね…ごめん、母さんがもっと、もっと」
「あっ、ごめんなさい。俺やっぱり外じゃなくていい、大丈夫!」

うっかり涙を流してしまった
慌てて首を横に振って、あの子は本を取り出し読み始める

ごめんなさいは私の台詞
もっと私に力があれば、貴方を外で自由に遊ばしてあげるのに
彼とつりあうぐらい権力が、地位があれば

部屋を出て声を押し殺し泣いた
しばらくして赤く腫れた目を冷やそうと、水辺を探し歩いていると彼の後姿を見つける

傍らには可愛らしい侍女が居て
ふと近くの水辺に映った私は酷く汚かった

綺麗だと何度も囁かれたあの日のことが、まるで嘘のように

「マスルール様本当に素敵よね…」
「奥さんいたとかショック!お子様はかっこよくなりそうだけど」
「そのうち別れるかもよ?ほら、子供だけ欲しいみたいな」

侍女達の何気ない会話が胸に突き刺さる
心臓を抉り取られたみたいに、痛みが全身に駆け巡った
もう泣くことすら辛くて、私は部屋に戻りあの子を少しだけ外に出させた

「日が暮れたら帰ってらっしゃい」
「うん」








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