シンドリアの夏は、暑い
まあ1年のうちほぼ全部が夏であり気温は高い
夜だって普通に腹出して歩けるぐらい

が、同時に数日だけ寒い日が訪れる
それはどうして来るのか分からないけど、とにかく寒い
ちょっとでも風が吹こうものなら悲鳴をあげるくらい

「さっぶい」

ガタガタと身体を震わせる
もうペン先がリズミカルな動きをしてる

朝はまだ暖かかったから油断した
お昼を過ぎたあたりから急に気温が下がりだし、今じゃもう白い息が出る
そんな寒さの中仕事しろと言われても無理

「じゃ、ジャーファル様…ほんと、むっむり…」
「ですから職場に羽織を常備しなさいと」
「ピンポイントでっ、洗濯中だったんです!」

快晴だったから汚い羽織をぱーっと洗っちゃおう
とか思った今朝の自分滅びろ
同僚やジャーファル様は凄く温そうな格好をしてる

私だけ通常スタイルで超通気性良い
風が拭けば全身駆け巡って出て行かれるよ

「あううぅぅ…」
「…セレーナ、ならもう書庫の整理でもして身体を温めてください」
「はぁい……ごめ、あとよろしく…」

隣に居た同僚に仕事を渡して部屋を出る
が、これが間違いだったんだ
扉を開けた瞬間、冷気が雪崩れ込んできた

「ぎゃあっ!さっぶ、うわあああありえなっ、ちょっ追い出さないでぇ!」
「開けっ放しだと此方も寒いんですよ。今すぐセレーナを放り出しなさい」

ジャーファル様の言葉は絶対です
と言わんばかりに皆して私を部屋から追い出し、挙句の果てには鍵までかけやがった
裏切り者!鬼!なんて叫びたかったけど寒くて口を動かせない

「と、とにかく早く…っはやく!」

一刻も早く書庫に向かって暖が取りたい
がちがち歯を鳴らしながら進むけど、道のりが遠い
廊下を曲がるとゴンッ!と何かにぶつかった

「い、っだ、あっマスルールさ…まぁっ!」
「…っ」

マスルール様の鎧に頭をぶつけたらしい
慌てて謝ろうとしたら、私の頬を風が撫でる
ぞわわーっと背筋を寒気が走って勢い余ってマスルール様に抱きついた

あ…鎧越しだけど人肌超温い
しかもマスルール様大きいからくっついてたら風あんまり来ない
うわー凄く幸せだー暖かいっていいね

「あの…」
「――― はっ!す、すみません!本当に本当に申し訳御座いません!」

温もりにつられてうつらうつらしかけてたところに話しかけられ目が覚めた
そりゃもうバッチリ覚めた
いくら寒いからって八人将に向かってとんだ無礼を仕出かして

「大変失礼しました!書庫の整理があるので、失礼しま…っ!」

必死に頭を下げまくってマスルール様の横を通り抜けようとした
が、強風吹き荒れすぎて言葉が詰まり、足はその場に凍りついた
さっき暖めたの全部持ってかれたよ

「わああ本当に無理っむ、りぃっ!」

またもマスルール様を盾にしてがたがたと震える
そういえばジャーファル様ですら着込んでるというのに、マスルール様はいつもの格好に薄い布を羽織ってるだけだ
み、見てる方が寒くなってきた…!

「…書庫ってあっちのっスか」
「え、あっはい」

しがみ付く私の手を外してマスルール様が歩き出す
うろたえてると後ろをついて来るよう指差された
もしかして、わざわざ風除けのために先導していただいてる、とか

恐れ多さと寒さを天秤にかけるけど、何度やっても寒いから助かる!にしか傾かない
頭の中でがちゃがちゃやってる間に書庫に着いていた

「かっ重ね重ね本当に、ほんっとーに申し訳御座いません!有難う御座います…!」

精一杯頭を下げ倒すけど、マスルール様からの返事は無い
さすがに怒らせたかなと顔を上げると手を取られた
衣服の厚さはほぼ一緒のはずなのに、私の手は酷く冷たくて、マスルール様のは凄く温かい

「あったか…」
「まあ、手は」
「えっでもお体も温かかったですよ?」

ぎゅっと手を握られたまま見上げれば困ったような顔をされた
何か困るようなこと、私言っただろうか
もう一度謝ろうと口を開くより前に扉が開いて書庫の中に連れて行かれる
そこも風は吹いてないけど勿論暖かくはない

「そして此処綺麗だし」
「…」

書庫にある書簡達はきちんと整理されていた
動く要素が1つも見つからないけど、またあの道のりを帰る気も全く起きない
途方に暮れる私を余所に、マスルール様は手を繋いだままその場に座り込んだ
そしてぐいっと手を引かれ膝の上に座らされる

「え。えっ?」

状況が掴めず顔を上げるとマスルール様の顔も近くにあった
ちょっとドキッてしたけど、それは私の顔に掠りもせず私の肩に落ちた
マスルール様が羽織っていた薄い布がいつの間にか私も包んでる

腕はしっかりと腰にまわされて、背中にはぴったり多分鎧がくっ付いてる
触れ合っている部分も温かいけれど
マスルール様が呼吸するたびに首筋に息がかかって、何と言うか物凄く恥ずかしくて顔が熱くなる

「2時間、」
「はいぃっ」
「経ったら起こしてくれ…」

それっきりマスルール様は何も喋らない
静まり返った部屋の中、自分の心臓の音と体温だけが敏感になる
暴れれば肩に置かれた頭が落ちてしまうから身動きが取れない

「…でもあったかい」

冷え切った私の手を包み込む大きな手
全身を包む体温に私の瞳もまどろんでいく
ゆっくり、ゆっくりと落ちていく意識の中、包み込む手の力が強くなった気がした









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