ぺたりと触れる
それは熱を帯びることなく乾いている
ただ規則正しく揺れている

「…鎧着けたまま立ったまま寝るなんて、器用にも程がある」

私の部屋の片隅で見つけた彼は、お決まりのポーズで寝息を立てている
部屋に行っていいかと問われて
勿論と返したまでは良かった

思いの外用事が終わらず待ち合わせの時間から3時間遅れて私は部屋に戻った
鍵は渡してあるから入って待っているだろう
そう思って扉を開けてみると誰も居なかった

本当はこうやって隅っこに居たのだけど

「ベッドで寝るとか、椅子に座るとかすればいいのに」

人の部屋だから遠慮しているのだろうか
だとしたら、この部屋、というか王宮そのものは彼の上司の所有物なんだから、気遣う相手を間違えてると思う

運ぼうにも彼との身長差及び体格差でそれは叶わず
起こそうにも…もう少しこの寝顔を見ていたい衝動が邪魔をする

よくよく考えてみたらこうして長時間見るのは初めてかもしれない
いつも私が先に寝て、彼のほうが早く起きる
うたた寝っぽいのは幾度か見かけたが、近寄るとすぐに起きてしまう

こう考え出したらやっぱり起こせない

「閉じちゃうと目付き悪いの分からないなぁ」

少し俯き加減で寝ているからよく見える
だいたい顔立ちは悪くない
悪いのは目付きというか目元なわけであって、顔そのものは全く悪くない
多少歳の割には武骨な気もするけど

もう一度ぺたりと鎧に触れる
どうしてだかコレに触ることを嫌うから、こういう時しか触れない
いくら触っても起きない

調子に乗った私は手を伸ばしてそっと口元のピアスに触れる
どうしてこんな所に開けたんだか
軽く触れていると、なんだかむずむずしてきた

「…ちょっと、ちょっとだけ」

踏み台を持ってきて身長稼ぎをする
別に私は小さくないけど、彼が大きすぎるせいで踏み台に乗ってもまだ足りない
でも大分目線は近くなった

軽く唇を合わせる
何をやってるんだかと妙に冷静になる
仕方ない。だってこんな時でもない限り、こういうことも出来やしない

10分ぐらい好き勝手触ったりキスしたり
もうそろそろ起こしてあげよう
踏み台を降りようとした瞬間体が宙に浮いた

まさか、と振り返るとあの悪い目付きが私を見下ろしている

「起きてたの…?起きたの?」
「入ってきた時点で起きてましたけど」

どこで狸寝入りなんて覚えてきたんだ
予想はしていたが、実際に起きていたと言われると穴があったら気分になる

「鎧触ってた時目開けてたんすけど、気付いてなかったからまあいいかなと」
「何一つ良くないよマスルール」
「存分に俺の体で遊んでましたし」

言葉に詰まる
普段拒否されてる部分を好き勝手したのは私だ
ここは文句のひとつぐらい大人しく聞いておこうと、小さく溜息を吐いた

「ごめんなさい。叱られます」
「…はあ。まあ別に怒ってはないんで」
「マスルール優し…くない。ベッドに運ばないで。置かないで。覆い被さらないで」

淡々と流れ作業のように行われる
ああもう、文句のひとつぐらい言ってくれたほうがどれだけマシか

「好き勝手しても良いですか」
「…どうぞ、ご自由に」









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