ヤムライハ様は23歳
ピスティ様は18歳
モルジアナちゃんは…14歳だから若すぎる

そんなわけで巡ってきたこのお誘い

「お願いしますセレーナ様ぁ!」
「…いや、本当に無理だから」

両手を合わせて今にも土下座しそうな勢いで頭を下げる友人
私と彼女はこのやり取りを、かれこれ3時間ほど繰り返してる
いい加減諦めて、というか余所に行った方が絶対良いってば

「合コンの数合わせに私をチョイスするとか選択ミスも甚だしい」
「分かってる。アンタに彼氏がいることは重々承知!…でもさぁ、彼氏といるとこ見たことないし、ヤムライハ様には断られたし、もうセレーナしか頼る人いないんだって」
「ピスティ様がいるじゃない」

あはは…と乾いた笑いと共に友人が目を逸らす
気持ちは分からなくもないけどね
ピスティ様を連れていけば、多分男性全員取られるだろうし
彼女はその小柄な見た目に合わず何と言うか、小悪魔ですから

「代金は勿論持つよ!ちょっとだけ、ねっ?ね?」
「仕事があるんだ」
「手伝う!もう喜んで引き受けさせていただきますセレーナ様!!」

これ以上冷たくするのも可哀想になって、私は代金と仕事負担の条件で手を打った
そうと決まれば仕上げるスピードは通常の3倍にまでなる友人
日頃このぐらいで動いてもらいたいところ

「…大丈夫、だよね」

誰に言うわけでもなく呟く
合コンとはいえ数合わせだし…仕事が終わってから言いに行く暇は取れなさそうだし
明日になってきちんと話せば分かってくれるだろう

私は自分に言い聞かせてペンを走らす
彼氏。というカテゴリーになってる人物はそれを表に出さない
向こうも出さなきゃこっちも出さない
おかげで友人ですら、私の彼氏がどんな人か知らない

知らないほうが、きっと幸せ

あ、私が幸せね
だって言えば問い詰められるに決まってる
そして王宮中に、下手すれば国中に広まりかねない



本気になった友人と仕事を終わらせちょっと洒落た酒屋へ向かう
男漁りに行くわけじゃないから、文官服で行こうとしたら凄く叱られた
面倒だけど私服に着替えて他の女性と共に待つ

「ごめん待たせてー」
「へいきー、どうぞー!」

武官と思しき男性達がやってくる
中々の顔立ちに、友人達のやる気の炎が燃え盛ってる
私は1人メニューを眺めた

飲み物が運ばれて自己紹介をして…名前だけ適当に言ってもさもさ食事を取る
夕飯と呼べる時間帯に食事を取れたのは久しぶりだなぁ
なんて変な感動をしながらむさぼる

「ちょ、セレーナ少しは普通にしてちょうだい」
「シーザーサラダ凄い美味しい。おかわりしていい?」
「…分かった。好きにして」

小声で窘められたけど気にしない
所詮数合わせにそこまで求めないでください
店員さんにサラダのおかわりを頼むと、隣の部屋から女の子の明るい声が聞こえてきた

はー、向こうも合コンか何かかな
男性の楽しそうな声も、声…も?

「ごめん、ちょっとお手洗い」

席を立って隣の部屋の扉の前に立つ
扉に耳を付けるとまた男女の笑い声
間違いない。この声シャルルカン様だ

仮にも八人将が一体何して…いやでも人の子だし仕方ないか
これ以上の詮索はしないでおこうと耳を離す
が、すぐにまた付ける羽目になった

「マスルール様もどうぞっ!」
「…どうも」

停止した思考回路を叩き起こして混乱する
なんでマスルールが此処にいるんですか
声しか聞こえないけど、どう想像しても女の子が隣に居る

駄目でしょそれは、やめなさいセレーナ
とか思いつつ扉をこっそり開いて隙間から様子を見る

シャルルカン様と、アリババ君と、あっスパルトス様もいるな
これは別の意味でショックだ
そしてマスルール…ジャーファル様とシンドバッド国王陛下は居ないのか

何にせよ女の子多くない?
4人に対して女性倍近くいますけど
マスルールの両脇にも居て、お酒を注いだり手を取ったりしてる

待って。なんでその取った手を自分の胸元へ持ってくわけ
幸せそうな笑みを浮かべて身体に擦り寄るわけ
私だって此処数日10分ぐらいしか会えてないのに…!

「なっ、可愛い子ばっかだろマスルール」
「はあ…」

シャルルカン様が上機嫌で話し掛ける
普段はとても気さくな方で、私個人としては好きな部類だったんだけど今株が大暴落した
その鎖で首絞めてやりたい気分

「得体の知れねぇ彼女より、どーよ」
「彼女いらっしゃるんですか?」
「あ、俺もそれ聞きました。でも一度もそれらしい人見たことないんですけど…」
「そういえば私もないな」

次々とマスルールに喰らい付いてる
今一瞬だけ心底面倒くさそうな顔を見せた

「…基本あまり会えないんで」
「寂しくないですか?私だったら耐えられない!」

腕を取ってぎゅっと抱き付いて
私此処まで来てなんで彼氏と他の女のいちゃつき見なきゃいけないの
ぐっと下唇を噛み締めて叫びそうなのを耐える

冷静に、冷静に
そういうキャラで職場にいるんだから
崩しちゃいけないものばかりな世の中ですから

「遠距離恋愛とかですか?」
「いや、違う」
「近くに居るのに会えないとか二股かけられてんじゃねーの?」

イラッときて思わず扉を叩きかけた
私は昼夜問わずに働いて、必死に必死に書簡と睨めっこして、疲れた身体を引きずり引きずり会ってるんです
けどそれをするとマスルールが物凄く心配するし、実際過去に1度倒れてめちゃくちゃ怒られたから、会いたくても我慢して時間やりくりして会ってるんです

本当は、2人でずっとごろごろしてたいよ

あの子達みたいに腕とか手を取って歩きたいし
こんな洒落た所に来てのんびりお酒飲みたいし
今着てる可愛い服だって、本当はマスルールに見せたくて奮発した物なのに

こんなことなら今日の合コンを断って、1人で仕事してたほうがマシだった
マスルールが此処にいるなんて知らなければそっちの方が幸せだよ

ズルイあの子達ばっか
悔しい、嫌い、女の子達も誘ったであろうシャルルカン様も、結局は来てるマスルールも

こんな子供みたいなヤキモチ妬いてる自分も大嫌い

「あ、お前あの子とか狙ってみたらどうよ」
「…?」
「ほらジャーファルさんのとこにいる、すっげー美人な子」
「そんな人いましたっけ、師匠」
「インク塗れで気付いてないだけだろ。超冷静で仕事中の横顔とか良い感じの子でさ」

話が大きく反れて別の子の話題になる
スパルトス様はさして興味なさそうだけど、アリババ君は物凄く食い付いてる
でも別にマスルールがどうでもいいなら私はいいし
なんて思ってたのに、マスルールの表情はどこか明るく見えた

「まあ…気になりますね」
「お?なんだお前もちゃんと男だったんだなー!よし今度紹介してやるよ」
「…お願いします」

思考が、停止した
それどころか周りの雑音も灯りも全部消えた

待ってよ。合コンだけなら私のヤキモチで終わるけど、浮気なんかされたらもうどうしたらいいの
無理すると怒るから顔に出さないよう必死にしてて
負担になるのは嫌だから黙ってるだけで、毎日会いたいし毎日名前を呼びたいよ

噂になるのは好きじゃないけど恥ずかしいだけで恋人だって周りに言いたい
八人将だから、じゃなくてマスルールだから好きなんだって、本当だから
偉い人の恋人なんて肩書き要らない
マスルールだけが傍に居れば良い

でも国王陛下のため国民のために頑張る貴方に、そんな我侭ただの女が出来るわけない

明日になったら振られるんじゃ
明後日には美人な女性と付き合ってるんじゃ
満更でもない表情が不安を膨張する

嗚咽が出そうになって、扉の隙間から顔を離して両手で覆う
涙が出てきて必死に声を殺した
3分ぐらいして落ち着いて、自分の部屋に帰ろうと手を離すと扉が大きく開いていた
私の目も大きく見開く

傍にはマスルールが立っていた

「いつまで立ってるんだ…」
「…マスルール、だって、…ごめんなさい」
「いい。謝るな」

俯きかけた顔を持ち上げられて、指の腹で涙の跡をなぞられる
顔を見るのが怖くて瞳を伏せるとシャルルカン様の声が響く

「あっれ、セレーナちゃんじゃねぇか」
「あ…っすみ、ません…」
「ちょうどいいや。あのさ、」

シャルルカン様が私に話し掛けるのとほぼ同時に、マスルールが私を部屋に入れて指差した

「先輩、俺の彼女です」
「…えっ」

一拍置いてから私は驚きの声を上げる
見上げると目が合って、さっきと同じくどこか明るい表情で見下ろされる
紹介された喜びに耽る間もなく部屋中に声が響き渡る

「いやいやいや嘘だろ!俺騙されないぞ絶対!!」
「えーっセレーナさんって、あれっ?でも確かに俺セレーナさんから彼氏居るって聞いた気が…」
「言われてみれば納得するな」

騒ぎ立てる人々の中、スパルトス様だけが凄く落ち着いている
そんなわけないとか嘘だとか言う女の子やシャルルカン様にむっとして、私は深く息を吸い込み一気に捲くし立てた

「悪かったですね!どうせいつもいつも仕事に追われて会う暇無かったし、ろくすっぽ着飾らずぼさぼさで見苦しいところお見せしたとは思いますが、おかげさまで二股かける余裕もありませんでした!誕生日だって記念日だって仕事仕事の毎日で、たまの休みはマスルールが仕事で全然合わないですし、今だってマスルールも早く上がれてたなら誘い断って一緒に出かければ良かったって、凄く…凄く後悔して、…大体シャルルカン様はいっつもマスルールばっか誘ってずるいんですよ!!目の前で彼氏を男に掻っ攫われてく瞬間見て誰が喜びますかっばか―――!!」

言いたいこと言ってすっきり出来たけど、また見っとも無く泣いてしまった
そんな私の頭をマスルールが撫でて顔を隠すように抱き寄せてくれる
駄々を捏ねる子供みたいに、私はその身体に顔を埋める

「…で、どこの誰が超冷静な子なんスか」
「そうだ、マスルールだってなんで…ううん、ごめん私が仕事ばっかしてるせい、だね」
「美人でジャーファル殿の下で働き、冷静且つ見目着飾らぬ者といえば十中八九セレーナのことだと私は思ったが」

スパルトス様がいつもと変わらぬ声でそう言った
そちらを見ればシャルルカン様と目が合って、何故か頷かれる

「や、まあ前言撤回。超冷静っつーわけでもなさそうだ、な」
「見抜けないとか先輩の目も節穴っすね。あ、俺時間になったから帰りますんで」
「ああ、気をつけてな」
「あっマスルール様ぁ!」

引き止めようとする女の子やシャルルカン様をさっくり無視してマスルールが扉を閉めた
そして私が居た部屋の扉を開ける
中に居た友人や男性達は驚いた表情を見せた

「セレーナ…荷物は」
「これぐらいだけど…」
「此処にコイツの分は置いておく。邪魔したな」

私が荷物を手に取ると、机の端に代金を置いて先に行ってしまう
慌てて追いかけようとする私の服を友人が掴んだ

「帰ってこないなと思ったら突然何!?」
「ごめん…理由は明日説明する。お疲れ様」

どうにか振り払って走って後を追う
店を出たすぐの所で待っていてくれて、それに寄り添って歩く
荷物は取られたので手持ち無沙汰になった私は躊躇いながらも腕を取った

「…今日はありがとう」
「礼はおかしくないか」
「合ってる。それとごめんなさい」

腕に回す力を込めると小さく笑い声が聞こえたような気がした
見上げても普段通りの仏頂面で、本当に笑ったのかは分からない

「それにしてもスパルトス様も間違いなんて言うんだね。親近感湧いた」
「ああ…冷静じゃなく天然だからな」
「へぇ。可愛いところもあるんだ」




見てくればかりにされて




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -