今日は2人でお出掛けする日
例えそれが王様の命令であっても、マスルールと一緒なら別に構わない

武官じゃない私は体が大層貧弱で
書簡を持って走り回るのが関の山
なので休日でも滅多に街には行かない
それは昼寝ばかりしているマスルールも同じ

「あ、可愛い」
「…欲しいのか」
「ううん、いい」

淡々と話すからまるで喧嘩しているみたいだけど
これが私達の普段の会話
マスルールの欲しいのかの裏には買ってやるが含まれてるし
私のううん、いいには大丈夫だよありがとうの意味もある

無言のまま2人でうろうろと街を散策する
少し見ない間に露店の商品は随分様変わりしていた
海の向こうからやってきた品を、のんびり眺めていく

私はマスルールの左隣に立って
大きな手を握ると目立つから、腰あたりの布をきゅっと持つ
はぐれないように。はぐれても見つかるだろうけど

「たまにはいいね」
「ああ」

南海生物の焼ける美味しそうな匂い
混ざり合っても芳しい香の匂い
微弱に頬を撫でる港から吹き込む潮風
インクと書簡の匂いに塗れた部屋とはえらい差だ

「あ…マスルール」
「?」

隣り合ったまま歩いていると王宮の武官が何かを探している
彼はマスルールの下に就いている人だから、私は何度か見たことがあった
2人で近付いてマスルールが「どうした」と聞くと彼は用件を伝えてきた

「…わかった」
「申し訳御座いません…!」

どうも何かあったらしい
マスルールが飛び出していかないから、多分緊急のことではない
けど、八人将の力が必要なことなんだろう
私はのんびりと手を振った

来た道を戻っていくマスルール
それを追う武官の人
背中を見送っていて、私ははっと目を見開いた

「―――、気付かなかった」

マスルールはとても大きいから歩幅だって大きいのに
小柄な私が隣を並んで歩けていた
普通なら、今みたいに人が追いかける形になるはず

「…」

足元を見る。とても貧相で小さな足
1歩踏み出してみる
また1歩、今度は走ってみる
最初の位置からは殆ど動いていない

きっとマスルールなら1歩で余裕の距離

「…よし」

私はそのまま王宮へと駆け出した
精一杯歩幅を広げて、感謝と愛慕の言葉を伝えるために








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