(※長編主人公が軸。こんな感じになるんではないでしょうか)



「セレーナ」
「あ…マスルール様」
「…」
「そんな顔しないでください」

仕事場に顔をだした彼に両手を組み礼をすると心底嫌そうな顔をされた
なんでそういう顔をするか、というのは年単位で一緒にいれば分かる
僕がこうして敬語を使い対応するから

こればっかりは何を言われても、何をされても変えられない
彼は八人将であってとても偉い人
僕は王宮勤めとはいえ、文官でも武官でもない宮廷音楽家
敬うべき対象であることに変わりはない

「勤務中ですから、ねっ?」
「…終業の鐘が鳴ればいいのか」
「前みたいに勝手に鐘鳴らさないでくださいね」

以前も同じやりとりをしたな、と思い出す
その時も鐘が鳴ればいいのかと言って部屋を出て行った
で、1分も経たずに鐘が鳴り響いたんだよな

「…」
「膨れっ面してもだめです」

今は仕事場に僕と他数人しか居ないから、こうして素の表情が出てくる
頬をほんの僅かだけ膨らまして拗ねる姿はとても可愛いけれど
自由な貴方と違って、僕は色々とやらなきゃいけないことがあるんです

「セレーナさん!ちょっと…!」
「はい、今行きます」
「…邪魔した」

他の人に呼ばれると諦めたのか部屋を出て行こうとする
鐘を鳴らすことはないだろうけど、寂しげな背中に思わず腕が伸びた
きゅっと、腰布を掴む
すぐに振り返った彼に向かって背伸びをした

ちゅ、と軽く音がする

自分からしたくせに僕の頬が赤くなるのが分かる
それを誤魔化すように俯きながら、呟いた

「終わったら、部屋に伺いますから」
「――いい。俺が向かう」
「…じゃあお待ちしております、マスルール様」

ぺこりと頭を下げて呼ばれた方へ向かう
恥ずかしい恥ずかしいと心臓をどきどき言わせながら駆ける

「セレーナさん本当にマスルール様と仲良いですね」
「え、見られ」
「見ずともなんとなく分かります」

淡々と楽器を運びながら人が言う
もうそれこそ埋まりたいぐらいで、蹲っていると苦笑した声が聞こえた

「次の演奏会でまた綺麗な歌声をマスルール様にお聞かせするために練習しましょうよ」
「…あれは王のためだから、彼は関係ないです」
「?そうですか…?」

僕は笑って立ち上がった
楽譜を手に取りそれを眺める
これは、王に捧げる素敵な歌

私が啼くのは貴方と2人の時だけ
ね、そうだよねマスルール









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