知らないから、どうでもいい
そう遠くを見ながら貴方は言った
私はそれが酷く悲しくて、何か出来ないかと考えた

「モルジアナちゃん」
「はい」

王宮を歩く姿を見つけて声をかける
こそこそと2人で話し合い

「アレはあった?」
「市場で見つけました」
「ありがとう。じゃあそれはあそこによろしく」
「分かりました」

確認したら次は政務室
忙しく走り回る文官さん達に挨拶して、奥にいるジャーファルさんのもとへ

「お疲れ様ですジャーファルさん」
「ああ、ちょうど良かった。頼まれていた物届きましたよ」
「本当ですか!取りに行ってきます!」

礼をして廊下に飛び出る
走って転ばないように!と後ろから声が聞こえた
浮き足立つのを抑えながら王宮の検品場所へ
そこには大きな大きな水色髪の人がいた

「ヒナホホさん!」
「おっ、セレーナ久しぶりだな」
「此度は遠征お疲れ様です。あの…」
「これだろ?」

他の物と同じ箱を指差され中を覗く
願っていた物に歓喜の声をあげて、何度も何度もお礼を言った
ヒナホホさんはそんな私の頭を優しく撫でる

「勘が良いから頑張れよ」
「今のところ大丈夫です」

荷物は衛兵さんが部屋に送ってくれるというからお願いした
さあ、後はヤムライハの所に行って貰ってこなくちゃ
鼻歌交じりに向かっていると、前方に人影

「あ…マスルール」

うっかり声に出してしまった
此方に気付いた彼が近寄ってくる
思わず後退りすると、顔を顰めた

「どうした」
「何が?あ、今日は鍛錬いいの?」
「…ああ」

疑いの色が瞳に宿ってる
無理もないか。此処数日はいつもより構ってないから
けどあとちょっとなんだ
だから、もう少しだけ我慢して

「ヤムライハに呼ばれてるから行くね」
「…」

脇をすり抜けて急ぐ
黒秤塔にはヤムライハと大量の書籍があった

「セレーナ、出来はどう?」
「あと少し。足りなくなったからアレ貰えないかな」
「そこにあるから好きなだけ持っていきなさい」
「ありがとう!」

隅に置いてある本の山の中にある物をいくつか手に取る
抱えたままヤムライハの近くにいくと、また難しい魔法式を考えてる

「それ何の魔法?」
「無限の可能性の魔法よ」
「アラジン君の熱魔法のやつ?好きだね、ヤムライハ」
「…セレーナがそうして走り回ってるのと行動原理は一緒よ」

ふふ、とヤムライハは笑った
それもそうだねと私も笑い返す

落とさないよう慎重に部屋へと戻る
此処は私の部屋じゃない
勿論、マスルールの部屋でもない
荷物を床に置いて、置いておいた箱から取り出した物を手に椅子に腰掛ける
部屋は花や綺麗な布で飾られている

「どんな顔するかなぁ…」

1人でそれを思い浮かべてにやにやする
手にある物を貰ってきた物で丁寧に仕上げていく

今夜。今夜が勝負
この間私は誕生日を迎えた
沢山の人が祝ってくれて嬉しくて
マスルールにも同じことしてあげたくて聞いたら、彼は誕生日を知らないと答えた

生まれてきてくれたことを喜ぶ日を知らないと

どう頑張っても私にはマスルールの誕生日が分からない
年齢だって、大体のものだと言ってたし
だから今日にした
私とマスルールが初めて出会った、今日この日に

「―――できた!よかったー」

完成したそれをまた箱に戻す
今度は箱を綺麗に飾り立てて隅に隠して
部屋に鍵をかけて食堂へ向かう

「すみません、お借りします!」
「必要な物がありましたらすぐ出しますから」

厨房の一室を借りて料理を作る
決して上手なんかじゃないけれど
大皿に作った物を盛り付ける
匂いに誘われたのか、アリババ君とアラジン君が姿を見せた

「セレーナおねいさん何を作ってるの?」
「秘密。そうだ、あとで君達もおいで」
「何かするんですか?」

それも秘密と答えたら首を傾げた
同時にお腹も鳴り響いたから、ちょっとだけ料理をあげる
味見も兼ねてもらうという下心
美味しい!と言ってくれてほっと胸をなでおろす

台車に料理を乗せて部屋まで戻る
鍵を開けてテーブルの上に準備して
さぁ、そろそろマスルールを呼びに行こう

「ます―――」
「なんだ」

扉を開けて名前を呼ぼうとした瞬間、目の前に降りてきた
屋根の上にいたのだろうか
なんにしても早すぎる登場に、慌てて扉を閉めて背に隠す

「は、早かったね」
「ああ…上に居たからな」
「そう…」

どうしよう。もっと見つからないと思ってたのに
探している間にジャーファルさんやモルジアナちゃんが来て、連れてきたところを祝う予定だったんだけど
作戦変更。時間稼ぎをしよう

「散歩しない?」

突然の申し出にも関わらずマスルールは頷いてくれた
部屋が見えるぎりぎりの辺りでうろうろする

「久しぶりだな」
「最近忙しかったからね。マスルールはバルバッドに行ってたし」
「…セレーナ」

呼び止められて振り返る
隣を歩いていたはずのマスルールが座り込んでいた
胡坐をかいたその上に座るよう、指差される

「なに?いや、座るけど」
「…少し寝ろ」
「えっ?」

座って見上げようとしたら視界を掌に遮られた
真っ暗な中、体温が過敏に伝わる
寝ている暇なんかないのに、微かな息遣いに睡魔が訪れる

「だめ、だよ…だって、」
「ちゃんと起こしてやる」
「ん…」

耳元で優しい声がして
それが心地良くてまどろむ意識に沈んでいった

「あら、セレーナ寝ちゃったの?」
「…まあ」
「無理をしてましたからね。でも今寝させずとも終わってからで良かったのでは?」
「起きたら怒りますかね…」
「怒るというよりは泣きそう。あれだけ必死に準備してたもの」
「…それだけで充分なんすけど」

すべてが上手くいった夢の中のような誕生日会は出来なかったけど
もっと幸せな誕生日会が出来るなんて、眠る私はまだ知らなかった

目覚めた私が泣き腫らして
ぐずりながら連れていかれた部屋がヤムライハのかけた魔法によって全て温存されていて
全部知っていたマスルールが、それでもこっそり私に笑いかけてくれて
作った服を大切に大切に着てくれて

夢と同じ愛しい言葉をかけてくれるなんて









「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -