「マスルール好き!」

響き渡ったのは紛れもなく私の声
途端静まり返る大広間
そして―――息を荒げながら喜ぶヤムライハ

「やったわー!言葉を真逆に変える魔法薬が、ついに、ついに完成したのよおおおおお!!!!!」
「ありがとうヤムライハ!最高だ…っあああああ間違ってない!何これ面白い、うわあああああ!!!!!」
「お、落ち着きなさいセレーナ…」

罵りたいのに出てくるのは賞賛の言葉
うわあああ腹が立つ!何これややこしい!
悶え苦しむ私をジャーファルさんが哀れみの目で見てる

「あなたもいつ盛ったんですか」
「ジャーファルさん毒じゃないんですから。セレーナの昼食にこそっと混ぜただけですよー」
「素敵いいいいいいヤムライハ素敵いいいいい!!!!!」

違うわっ!馬鹿って言いたいのよ馬鹿!
これ失敗してるよどう考えても
逆というよりは、言葉がポジティブに変換されてるもの

ヤムライハに引っ張られて大広間に連れ出されたと思ったらコレだ
何か怪しいとは思ってたけどさー
「マスルール嫌い」って言ってみてなんてオカシイよね

大広間にいる人全員がこっちを見てるじゃんか
どうしてくれるのよ、この盛大なる告白を

「嬉しいじゃない!告白できちゃってさ!」
「どうせアンタがマスルールを好きだってこと、本人以外分かってるわよ」
「素敵!最高!―――っ!」

思い通りに言葉が発せられないのってイライラする!
地団駄を踏んでいるとヤムライハが目を見開いた

「…今のって」

出入り口の方から声がした
…振り向きたくない。いやもうマジ振り向きたくない
目の前に居たジャーファルさんを見ると、哀れみの目に拍車がかかってる

「セレーナ」
「はいっ!」

後ろから呼ばれて思わず返事をしてしまった
観念して振り返ると、ああ…マスルールだ…紛れもなくマスルールだ

「…」
「えっ、ちょ、好きなとこ連れてって…!」

あああああヤムライハ覚えときなさいよ本当に!
腕を引かれてどこかに連れてかれそうになるから、必死に止めたかったのに何だこの台詞は
マスルールもマスルールで言葉の通りに受け取るんじゃない!

どう頑張っても否定の言葉が出せなくて、連れてかれるがままにマスルールの自室へ行った
前ちらっと見たけど何も無い部屋だね本当に

「…さっきの」
「あ、あれね!ええとアレはヤムライハが、えーっと…」

否定的な言葉を使わずに状況を説明しなきゃならない
ヤムライハの薬のせいだから?
駄目だ。多分だけど"〜のせい"は使えない気がする
下手なことを言うとえらいことになるしな

スタンダードにヤムライハの薬を飲んだらこうなった
これだ!これで理解してくれるでしょう

「薬!薬を飲んだらこうなったわけ!」

よし言えた!言葉を選んでいけば薬なんて怖くない
しかし、達成感満ち溢れる私の顔とは逆に、マスルールの顔はえらいことになってる
分かって。全力で分かって。その力の1億分の1でいいから頭にまわして理解して?

「こうって何がっスか」
「だから!言いたいことを素直に言えるわけですよって違わないいいいい!!!」

この薬の判定材料は一体どこを基準にしてるんだバカヤロー!
言葉で分かってもらうのはもう放棄しよう
頭を抱えて精一杯苦悩の表情を浮かべた

「…」

さすがに理解してくれたのかマスルールの顔がいつも通りに戻る
…あれ、お前そんな悪人顔だったっけ
一瞬で間を詰められ抱き上げられた

「俺のこと好きですか」
「はっ、当たり前に決まってんじゃん!?」

の、乗せられた…!
してやったりみたいな顔しないでよ、あああ何これ
薬のせいとはいえ愛の告白みたいなのに顔が熱くなる

もうやだ、最悪

「〜っ、ちがっ、うう――」
「え…っ」

泣き出すとは思っていなかったのか
焦るマスルールの顔が視界の端に映る
だって、だって薬のせいだなんて

「…すみません、そんな嫌だったなんて」
「だって、薬…っちゃんと素の時に好きって言いたいから、今のは…!?」

驚きのあまり涙が引っ込んだ
今、私なんて言った
マスルールもぽかんとしてる
あ、ああ、どどどどうしよう

「違うんだってば薬のせいであって今のはナシ!思ってない思ってない!そんなこと微塵たりとも思ってないから逆にすれば万事解決なワケですよ!!」
「…それも逆にしたらいいんですか?」
「へっ、あ、普通に喋れてる!」

すらすらと言いたい事が口に出せてる
自分の意思って大切なんだなぁ!
晴れ晴れとした思考が徐々に落ち着きを取り戻す

「…え?」
「どこまで逆にしたらいいんスか」

困惑してるマスルールと、気付いて青褪める私
どこまで?そんなの言えるわけないじゃん

「もう色々と忘れて…」
「はあ」

のた打ち回りたかったけど、抱き上げられてるから出来やしない
顔を見られたくなくて肩に額を乗せて俯いた

「――まあ、のんびり待ってますんで」
「うるさいよ馬鹿…」

バレバレだとしても隠しておきたい気持ち、分かってよ









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