「お見合い、ですか」
「ああ、いや、酷な話だとは重々承知なわけだが…」

血の気が引いた
真っ青というよりは、多分真っ白だと思う
王が何を言っているのか少し理解ができない

記憶を必死に遡ってみる
私は王に拾われて、育ててもらった
少し遡りすぎたけどまあ良い、とにかく私は王に恩がある
王が大好きだし、彼のためなら酒を少しくすねてきたり、ちょっと脱走、もとい散歩のお手伝いをしたり色々してきた

決して武術に優れているわけではなかったから、出来の悪い頭を頑張って使う文官となった
最初はジャーファルさんに呆れられながらも、最近ではそれなりの仕事ができるようになった
そしたらまあ、地位が一緒に付いてきた
仕事も増えたし、知らない間に20歳になってた

よしよし、此処まで順調にきてる
20歳超えても処女だなんて口が裂けても言えない状況になって、ちょっと空しくなった時もある
でも、王のためならと今日まで必死に働いてきた
それがどうしたことだろうか。王の口から出たのはお見合い話だ

「何がどうなってこうなったのか」
「また勝手に記憶を遡っていたな。俺の話は聞いていたか?」
「こんな不細工な女、誰が好きこのんで結婚するというのですか!恥曝しも良いところです!」

机に手を付いて抗議をすると、王の眉が動いた

「セレーナ!何度言ったら分かるんだ!お前は可愛いし綺麗だ!本当だったらそんな可愛げのない服ではなく、もっとふわふわした可愛らしい服を着て中庭で花を摘んでいるべきなんだ!それをお前が必死に頑張るから、今すぐ仕事辞めろなんて言えず早数年が経ってしまったじゃないか!」
「シン、それは逆ギレですよ」
「お前だってそう思うだろうジャーファル!」

勢い良く立ち上がって言い放つ王に思わずぽかんとしてしまった
合間にジャーファルさんが入ってくれて、ようやく言葉を理解する時間が得られた
王は私に仕事をさせたくないというのか
だからといって、お見合いとは事が早急過ぎないだろうか

「確かにセレーナには良き伴侶を迎えてほしいとは思いますが…」
「そうだ!あと娘の顔が見たいぞ!」
「貴方のではありませんし息子の場合も考えてください。しかし本人の了承を得るべきでは」
「そうですよ王!私はまだまだ貴方様の傍に仕えていたいのです。それを要らないだなんて…」
「嫌だ。俺は決めた。セレーナ早く結婚しろ」

お見合いからレベルが上がっています、王
もう何でも良いから持って来た仕事を早くやってほしい気分になってきた
大体お見合いって誰とするんだ…王が決めた相手なら、それなりに良い人だとは思うけれど

「まさかもう相手に頼んだなんてありませんよね、シン」
「頼んだぞ。あっさりOKしてくれた」
「そこまでして私を王宮から放り出したいのですか!」
「まあ一度見てくれ」

首を絞めにかかろうとしたら、書簡を手渡された
中にはずらっと何人もの男の名前、年収、性格、容姿が事細かに書かれている
これ全部とお見合いしろってことですか

「大丈夫だ。ちゃんと審査したからな!」
「アンタ公務ほっぽってそんなことしてたんですか…!」
「うわぁ…全然知らない。誰一人として知らない」

私の代わりにジャーファルさんが首を絞めてくれた
心中で礼を言いつつ名前を見ていくけれど、記憶に掠りもしない
書簡を顔面に投げつけようとした瞬間人が入ってきた
急いで何事もなかったかのように取り繕う

「シンさん…」
「なんだマスルールか。じゃあ投げよう」
「こら、なんだそのポーズは!」

見知った人間なら王に多少無礼を働いても問題あるまい
マスルールだと分かったので、書簡を投げつけた
王が避けなかったのは、ジャーファルさんが押さえつけていたからです
一連のやり取りを見て疑問符を浮かべながらマスルールが寄ってきた

「何してるんスか…?」
「マスルール!お前だってセレーナは早く結婚して幸せになるべきだと思うよな!」
「もう良いですから早くこれ仕上げてください」

私を可愛がってくださるのは本当に嬉しいが、度を越すと苛立ちすら覚える
ぐいぐいと書類を差し出していると、マスルールが私を指差してとんでもない発言をした

「セレーナ、まだ処女なのに結婚するんですか」

部屋が一瞬にして凍りついた
全員の視線がマスルールにいった後、王とジャーファルさんの視線は私に移行する
私はというと、何でコイツそんなこと知ってるんだと、視線どうこうの問題じゃなかった

「…本当なのか、セレーナ」
「いやいや恋愛のひとつやふたつ、する時間はあったでしょう…?」
「してません…。俺が知る限り男と10分以上私用で居たことないです」
「お前なんなの、私の何を知っているの。泣きそうだよ、泣いていい?泣くぞ、コラ」

2人の私を見る目が驚愕から哀れみになってるじゃないか
なんだ、これ。イジメですか

「大体ジャーファルさんだって人のこと言えるんですか…!」
「わ、私は忙しいんですよ!それを言うならマスルールだって…!」
「お前達押し付け合いは見苦しいぞ…」
「はあ、俺はしてますけど」

もう一度空気が凍りついた
マスルールが恋愛してるだなんて誰が想像できただろうか
問い詰めようと歩み寄るけど、言葉が上手く口から出てこない

「…コレ、見合い相手っスか」
「あ、ああ…」

にじり寄る私を避けて、マスルールが投げつけた書簡を手に取る
長いそれを机いっぱいに広げて一番端の空欄を指差した

「此処…俺の名前書いといてください…」

そう言い残してマスルールは行ってしまった
凍り付いていた空気が、一転してぐちゃぐちゃになる
アイツ一体何しに来たんだ

「よ、良かったじゃないですかセレーナ。知り合いですよ。マスルールとなら王宮に留まれますし、仕事も続けることができますし、貴女のことよく存じてるじゃありませんか…!」
「…マスルール、アイツもしかしてストーk「シン!」

後ろでぎゃいぎゃい言ってる声がするけど、それどころじゃない
何で、何が、どうしてこうなった
問い詰めたいことがありすぎて、私は訳が分からないまま言い放った









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