恋愛とはそういうものです。
と、ジャーファルさんは言いました
けれど私にはよく分かりません

「いいです、じゃあシャルルカンと飲みに行きます」
「ああ、そうしてくれ」

綺麗な顔立ちを険しくして、セレーナさんは行ってしまった
マスルールさんと飲みに行きたかったけれど断られたのです
そんなマスルールさんは、一見すると何事もなかったかのように、私に話しかけてきます

「鍛錬に行くか」
「…はい」

私との鍛錬なんて、いつでも構わないのに
マスルールさんはシンドバッドさんの言い付け通り、毎日稽古をつけてくれます
でも、正直こういった事の後はしたくありません

「はぁ――――…はっ、やっ!」
「…」

セレーナさんとすれ違った時はいつも上の空
どこか遠くを見ていて、そして

―――バキィッ!

「…っ!」
「、すまん、大丈夫か」
「はい…」

容赦なく叩き込んでくる
つまり、普段は手加減されていることが浮き彫りになって、あまり好きではない
肉体的にも精神的にもショックを受けます

目の端を掠ったおかげで視界がよく見えない
布を濡らしてくる、とマスルールさんはどこかへ行ってしまいました
木の下に座って待っていると、ふわり、と優しい匂いがした
この国とは違う、けれどどこか温かい匂いに振り向くと、思ったとおりセレーナさんがいました

「あ…見つかっちゃった。…どうしたの、大丈夫?」
「大丈夫です。少し掠っただけですから」
「年頃の女の子に怪我させるなんて最低。血も出てる…拭くね」

シャルルカンさんと飲みに行くと言ったのに、セレーナさんはこうして様子をよく見に来る
それが私にはとても不思議で仕方なかった
逆の時もよく見かける。マスルールさんが誘ってセレーナさんが断って
やっぱりお互い不機嫌になった時、マスルールさんは誰かと行くと言うけれど、大体庭でパパゴラスに餌をあげています

あんなに文句を言うのに、お互いのことを気にしていて

「はい。全く、マスルールは何してるんだか」
「あの…セレーナさんは飲みに行ったのでは」
「…シャルルカンがちょっと掴まらなかっただけだから」

私が尋ねると、いつもこう答えます
けれどシャルルカンさんは終業の鐘が鳴ればすぐ飲みに行きたがるから、掴まらないことはないってアリババさんは言ってました
凄く分かりやすい嘘なのに、何度もそう答えます

「…セレーナ」

マスルールさんが濡らした布を片手に帰ってきました
その姿を見て、セレーナさんは少し慌てながら、やっぱり文句を言います
文句に対してマスルールさんがまた不機嫌になって
それがいつものことです。今日もまたそんな会話が続けられています

「セレーナさん」
「――だから、え、何?モルジアナちゃん」
「私はとても不思議です。お2人とも何故言い合うのですか?」

ぼんやりとした視界の中尋ねる
思い出したかのように渡された布を目に当てる
返事がなかったので、俯いて私は疑問を口にした

「お2人が喧嘩しているのを見ると、悲しくなります。喧嘩の後、1人で悩まれる姿を見かけると、もっと悲しくなります。私の修行が邪魔になっているのなら…気にせずお2人で出かけてください。ご迷惑はかけたくありません…」
「め、迷惑だなんて!邪魔だとも思ったことないよ」
「モルジアナ…」

俯く私をセレーナさんが抱きしめる
マスルールさんも傍に来て頭を撫でてくれた
お2人の優しい匂いが広がって、安堵する

「モルジアナちゃんは何も悪くないの。…マスルールだって悪くない。私が素直じゃないから」

耳元でゆっくりとセレーナさんがそう言った
ようやく鮮明になった視界に、見たことないぐらい綺麗な微笑みが映った

「そんなこと思わせてたなんて、最低ね。ごめんなさい」
「…すまん」

お2人に謝らせてしまい、申し訳なくなる
顔を上げてください。と言うと、マスルールさんが私とセレーナさんを抱きかかえた
誰かに抱きかかえられたことなんてあまり無いから、思わず緊張してしまう

「あの…?」
「マスルールも同じこと考えてた?今日は3人で飲みに行こう!」
「…ああ」

セレーナさんが笑うと、マスルールさんも小さく笑いました
その笑顔を見て言いようのない感情が胸から湧き上がってくる
自然と私も笑っていて、無理にこの感情に名前を付けるなら、嬉しいになるんだと思いました

「モルジアナちゃんは本当に良い子ね、可愛い。妹にしたい」
「同じファナリスなんで…」
「なにそれ、自分のが兄に向いてると言いたいの。ずるい!」
「私は…お2人の娘が良いです」
「「え」」

真っ赤になったお2人の顔とちぐはぐな反論の言葉を聞いて、やっと意味が分かった気がします









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