謝肉祭の最中に、誰も居ない海辺でただ1人踊ってた
周囲には砂と海しかなく、灯りも欠けた月だけ
衣装も決して煌びやかな物ではなくて貴金属も無かった

それでも踊る姿から目が離せなかった

波の音に合わせて弧を描く
ゆったりと、時に速く、そしてまたゆっくりと
少しずつ海へと向かっていく

足先が水に浸かる
腰布も浸っていく
見惚れているうちに胸まで浸かった
僅かな月明かりが顔を照らした時、思わず駆け寄って海辺から引き上げた

「あ…」

しまった、と後悔しても遅い
彼女は俺を訝しげな目付きで見ている
掴んでいた腕を離すと、その瞳から水滴が落ちた
髪から滴るものとは違うものだった

「どうして、助けるのですか」

震える声で呟いた
隠すことなく涙を流す姿は扇情的で
答えずにただそれをずっと眺めていた

「私は、もう、疲れたのです…どうか、どうか」

ぽつり、ぽつりと途切れ途切れに彼女は話し出す
愛していた人に裏切られた
家族は居らず、その人だけを頼りにしていた
彼と出逢った謝肉宴の日に、思い出と共に沈もうと
好きだと言ってくれた踊りを舞って終わろうと

「…この国が、嫌いですか」
「え…?」
「俺はシンの作り上げた国が、好きです。人が笑って泣いて、どちらも平等にくる国が、好きです…」

楽しいことや嬉しいことばかりの国は、脆い
辛いことや悲しいことばかりの国は、醜い
どちらもあるからこそ、人は、人として生きていける

「貴方は、私にもっと泣けと、言うのですか」
「…泣き止めば笑えるようになります」

俺を睨んでいた瞳が、俺の言葉を聞いて泣きながら笑った
可笑しいと、無表情の貴方が言うには可笑しいと
そう彼女は涙を流しながら腹を抱えて笑った

「…宴に戻ってください。大丈夫、もう死ぬなんて考えていません」
「なら、踊ってくれませんか…?」
「…分かりました。命の恩人の、貴方のために」

波打ち際で彼女が踊る
遠くから聞こえる宴の音と、波の音に合わせて
時折海の彼方を見て、時折俺を見て微笑んで
さよなら、と彼女が呟いたのを聞いた

次の宴で逢う約束を勝手に心の中でして、彼女の踊りに見惚れ続けた









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