私達はただ平和に暮らしたかった
厳しい環境下で弱くとも、身を寄り添いあって生きていきたかった
どうしてそんな瞳で私を見るの
その笑いは一体誰に向けられているものなの

叫び声がする
泣き声も響く
ごめんなさい、ごめんなさい

鎖はついていないのに
どうして私は此処から出ることをしないんだろう
重たいのは、体なのか、それとも





朝日が私の顔を直撃する
瞳を開けて、また閉じる
窓に背を向けてぼんやりと瞼を開いた

「夢、夢か…」

嫌な汗が全身に纏わり付く
水浴びでもしようと、着替えを持って部屋を出た
浴場はまだ掃除されていて、仕方なく森へ向かった

パパゴラス達の目を除けながら、入り口から一番近い湖に行く
澄んだ水に手を入れて、ひとまず顔を洗った
服を脱いで足先から少しずつ浸かっていく

ぽたり、と水面に水滴が落ちた
泣いている自分に驚いて、慌てて瞳を拭う
誤魔化すように水中に潜った

こんなに自由に泳げるのに
走ったり喋ったりできるのに
まだ奴隷時代の夢を見るなんて

ひとしきり泳いだ後顔を出す
着替えの置いてある場所を見ると、パパゴラスが居た

「…あれ?やっ、ちょっと待って…!」

叫び声も空しく、パパゴラス達は私の服を持って飛び去った
ご丁寧に着てきたのも新しいのも纏めて全部
時折追い剥ぎをすると聞いていたけれど、今この状態でやられてしまうとは微塵も思っていなかった

「どうしよう。葉っぱ、いや何か誰かさんとお揃いな気がして、何故か嫌…」

森の中が故に大きい葉は沢山ある
でもそれを纏う気にはどうしてもなれない
腰から下は水に浸かったまま、うろうろと湖周辺で代用品を探す
ばさばさっ!と羽ばたく音がしてもしかして返しに来てくれたのかと、振り返った

「あ…」
「…」

パパゴラス達と一緒に居たのはマスルールさん
これも夢ではないかと瞳を擦った
頬を抓っても目覚めない事実に、私は悲鳴を上げて水中に潜った

「すみません…コレ、置いときます」

上から声が聞こえて顔を出す。気を遣って後ろを向いてくれていた
持ってきてくれたことにお礼を言おうと服を手に取ったら、見事に穴が開いている
着ても大事な部分は隠せそうにない
返されたというのに、パパゴラスは執拗に私の服を取ろうとしてくる

「ダメっこら、ああ―――!」

ビリィッ!と服が真っ二つに裂けた
その半分をマスルールさんへ持っていくパパゴラス
背中を向けていた彼が布を受け取って、不思議そうな顔をしたあと、此方を見て理解した

「ちょっと…待っててください」

そう言うと大剣を抜き取って、それを止めていた布を差し出した
私が受け取るとまたすぐに後ろを向く
ケーッというパパゴラスの叫び声が聞こえた
絞められているっぽいのを横目に、貰った布でどうにか体を隠す

「あの…」

いつもの服よりもだいぶ丈が短くて風が通る
下着もないことに気付いて、恥ずかしいけれど尋ねた

「このぐらいの、白いやつ…見ませんでしたか?」
「俺が貰ったのはそれだけでしたけど…」

新しいのは持ってき忘れた可能性もあるけど、穿いていたのはあるはずなのに
おろおろしていると察してくれたのかまたパパゴラスを絞めた
マスルールさんがパパゴラスのボスだという噂を、聞いたことはあったけれど本当だったとは

「王宮まで送ります…」
「大丈夫ですよ、帰れます」
「…何があるか分かりませんし」

安全な道を先頭に立って教えてくれた
あまりお話ししたことはなかったけれど、心優しい人なんだと安心する
わざわざ緑射塔まで送ってもらい礼を言う

「これは洗ってお返ししますね」
「はあ…すみません」
「本当に有難うございます」

塔へ入ろうとすると呼び止められた
まだ濡れている髪に何かを差し込まれる
「似合うと思うんで、あげます」とだけ残して行ってしまった
髪に手をのばして取ると、白くて小さい、可愛い花だった









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