(※酔いしれたのは恋か酒かの続きです)



貴方が発した言葉の魔力はとんでもないもので
今の私はルフを従えて仕事をしている
と例えてもおかしくない勢いで、全て終わらせた

先に向かっている店に鼻歌交じりで向かうと、そこは煌びやかな世界だった
思わず、一度扉を閉めた
普段飲みに行く時誘われるのは、近場の男の溜まり場のような所だ
しかし、今日はなんだ。まるで国営商館の酒場みたいじゃないか

「おーい、何してんだ?」

意を決してまた扉を開くも、やはり圧倒される
どこに行けば良いか分からず立ち竦んでいると、呼んだ本人がおいでなさった
が、すぐに私の格好を見て笑いを堪えだす

「お前…それぐらい変えてこいよ…っ」
「え…あっ、しまった…!」

インクまみれの前掛けを慌てて外す
喜びに耽りすぎて、格好のことを気にしていなかった
よくよく自分の姿を考えると、髪もぼさぼさで服だって官服のままだ

「ヤムライハ並みにだっせーな。まあいつものことだけどよ」
「…すみません、酒ください」

言い返す言葉もない
杯を手に着飾った女性がやってきた
私の格好を見て、少し驚いた表情をした

「王宮の方々は本当に熱心なんですね」
「え、ええ…一部の人以外は」

酒に溺れている人達の方へ視線をやる
高らかな笑い声が聞こえたということは、ピスティもいるのだろうか
眩しい店内に、1人安定している姿を見つけた

「あ…、あの、少し移動します」
「お持ちしますねー」

数少ない勇気を振り絞って彼の前に立つ
影に気付いて、此方に顔を向けた
挨拶をして隣に座ってもいいか、許可を貰った

「お、なになに?セレーナそいつと飲むワケ?もーしかし「過去を洗いざらいバラすぞ」

茶々を入れてきたので逆らえない一言を発する
全く、この男は知られたくない過去ならやらなければいいものを
追い払って満足していると、僅かに驚いた顔をされているのに気付いた

「すみません、お見苦しいところを…」
「先輩頭上がらないんですね」
「昔、少しばかり係わりがあったので」

珍しいものを見るような目で此方を見ている
どんな視線であれ、私には上気する物以外他ならない
此処で頑張って会話を続けなければ

「お酒どうぞ…!」
「…どうも」

違う。これじゃあ接待だ
途方に暮れながらもお酒を注ぐ
隣からくすくすと笑い声が聞こえた

「それは私がやるお仕事ですので」
「そ、そうですね…」

別のお酒を私の杯に注いでくれた
水面に映る私の顔は酷く汚れていた
インクが、こんなとこにまで飛んできてる
驚いた表情はこれのせいだったのか

「俺に何か用ですか…?」

裾で拭うか考えていると話しかけてもらえた
が、どう返していいか分からない
仕事で疲れている頭を叩き起こして、最良の返事を考えた

「お話ししたくて…!」

じゃないよ、何言ってるんだ私の頭
どこの子供の返事なんだ、それは
ほら見ろ。困ってるじゃないか。考えろ、考えろ

「深い意味はなくてですね。あまりお会いすることがないので、よく知りたいなと!あ、あれ…?」
「マスルールです。20歳でファナリスです」
「そこは存じ上げてます。じゃなくて好きな食べ物とか趣味とか、あ、いや違いますごめんなさい」

言えば言うほど嵌っていく
いつも考えていた理想の会話とかけ離れてる
とにかく落ち着こうと私はぐっと酒を飲み干した

「セレーナ・アイオスです!ジャーファルの部下というか愚痴友です、文官です」
「知ってます」
「…違う、こんな会話をしたいんじゃなかったのにぃー…」

思わず口に出して体勢を崩す
ただ、知りたかった。傍に居て貴方のことをよく知りたかった
出来ることなら私のことも知ってほしかった

強いお酒だったのか、体勢を変えた瞬間酔いが一気に回った
このままじゃもっと余計なことを言ってしまう
正気を振り絞って立ち上がった

「酔ってきたんで…あの、失礼します…」

頭を下げると世界が回ったような気がした
そういえば朝から何も食べていない
そこに酒を注ぎ込んでしまった。酔って当然かもしれない
ふらふらと別の場所に行って私はそのまま寝てしまった

「面白い方でしたね、マスルール様」
「はあ…俺ちゃんと話せてましたか?」
「話すのが苦手なら、今度外出をお誘いになっては?文官は息抜きが大事ですよ」
「…頑張ってみます」

ふわふわとした頭で私は彼に誘われる夢を見た
起きたら終わってしまうと、どこか冷静に考えて、頬に涙を流していた
明日はもっと考えてお話ししよう









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