好き。っていう気持ちは厄介だ
何をしてもかっこよく見えて、動作1つ1つが気にかかる
それは良くも悪くも私に作用する

書類をぽいっと机の端に投げる
今日は怒るジャーファルもいない
仕事部屋はもぬけの殻だ
お行儀が悪いけど机の空いてる部分に腰掛けた

仕事が全く手につかない
これでは王を叱ることすらできやしない

「…好き」

そう気付いた時にはもう遅かった
恋人ができた?それならばまだマシだ
実際にいたら泣き喚くだろうが諦めがつく

王はファナリスを連れてきた
表情は豊かではないものの、素直で可愛い女の子
同じ血であることが嬉しいのか
顔には出さないけれど、物凄く可愛がっていることは一目瞭然だ

片や私は想いを告げれず、勝手な思い込みで彼を避ける日々
表情が乏しい部分は彼女と同じ
でも私はファナリスじゃないし、ああやって組み合うことができない

好きになったのがジャーファルなら、まだ望みはあったのかもしれない
同じ部屋で仕事して、同じ悩みを共有して
きっと告げたら「何かの冗談ですか。あ、熱ですか?」と言われそうだけれども
それでもきっと、今よりは辛くない

「辛い辛くないで恋する相手を決めれたら、どれだけ楽なんだろうなー…」

開きっ放しの窓から空を見上げた
白い雲が悠々と流れている
話したことは王を介して数回
傍にいたことは朝議の時に彼が居れば

誰が私を好きになってくれようか
書簡とインクの匂いに塗れた私を
こうして眺めるだけしか出来ない臆病者を

「おーい!今日飲みに行くよなっ、行っちゃうよなー」
「はー…シャルルカンサマ暇ですねー」
「なんだよ、その取ってつけたようなサマ呼びは」

騒々しく入ってきた人物に分かりやすい溜息を吐く
飲みに行って忘れてしまおうか、いや、それで忘れられるならこんな悩みはしない
私は山積みの書類を指差した

「生憎まだ仕事が残ってますんでまたの機会に」
「セレーナの頭なら今日中には終わるだろ?」
「私の頭は1つしか無いので、無理なんです」

どういう意味だと尋ねられる前に、部屋から追い出した
鍵をかけてしばらくは煩かったけど、だんまりを決め込むと静かになった

しかし、いい加減仕事をしないといけないのも事実
脳味噌を回転させて、事態を冷静に考える
そうだ。別に恋人ができたわけではない
今までの見つめる日々に、ちょっと赤いのが増えただけだ

それに彼女は別の人に好意を寄せてる節がある
彼だって特別な感情はないと言っていたのを人伝に聞いた
同種族である。これは私でも嬉しく思うことだ
何ひとつ問題ない。可愛い少女が貴重な仲間であれば当然の行動だ

優しくするのも、気にかけるのも
服や靴や貴金属を与えるのも
一緒に外に出歩くことも

「…どうしてそっちに行った、私の頭」

逆に気が滅入ってきて頭を振った
考えるのは止めよう。仕事を始めればそちらに集中する
そう思った矢先、扉が盛大に壊れた

破片が辺り一体に突き刺さる

「おーし!さすがだマスルール!」
「…いいんすかね、コレ」

良いも何もやってしまった後に言っても遅い
呆然と一瞬で消失した扉を眺めていると、煩い人がまた詰め寄ってきた
全然減っていない書類の山に文句を言ってくる

「飲みに行くんだから早く終わらせちまえよ」
「仕事増やしてくれた貴方が言うのかそれを…!」
「…飲みに行かないんすか」

掃除と修理の言葉が頭を過ぎって、思わず首元を掴んだ
我を忘れかけた私に降り注いだ言葉は、私の頭を占領して旗を立てた

「…行きます。ちょっと待ってください」

好き。っていう気持ちは厄介だ
何気ない言葉1つにだって、簡単に行動が決められてしまう
それは良くも悪くも私に少しの勇気をくれた









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